■異質な国々との「自由貿易」


【政経融合の時代へ】鈴木氏は、近年「自由貿易」の中身が徐々に変質してきていたと指摘する。

 第二次大戦後、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)からWTO(世界貿易機関)体制に至った時期を経て、我々は当たり前のように「戦前のようなブロック経済ではなく、世界が自由貿易でつながるのが正しい姿だ」と受け止めてきた。だが振り返ってみると、冷戦時代の自由貿易は西側諸国間のものだった。同盟関係にある日米や友好関係にある欧州との貿易が非常に盛んになった一方、中国や東側諸国との取引には制限があり、自由とはいえなかった。

 ところが、冷戦が終わると、中国は2001年、ロシアは2012年にWTOに加盟。当時は、あたかも世界が自由貿易一色に染まるかのような期待感があった。やがて中国は「世界の工場」として、資源大国ロシアは「世界のガソリンスタンド」として、世界経済の中に組み込まれていった。

 規範も価値も共有しない国が自由貿易の中に入ってきて、相互依存の関係が深まるにつれ、国家間対立の際に経済をテコにして関係を整理しようという事例が頻発するようになった。「政冷経熱」「政経分離」という区別ができたのは過去の話で、「政経融合」の時代に入りつつある。


【貿易と相互依存の武器化】特定の物資を過度に他国に依存すると脆弱性が生じ、それを狙い撃ちするESが起こりやすくなる。中国やロシアが自由貿易の枠組みに組み込まれてきたことで、我々はさらに脆弱になっている。米欧なら話し合いで解決する道があるが、中露相手ではそうはいかない。現在、ロシアはウクライナに対し、武力を用いて自らの意思を通そうとしている。脆弱性を持つことが、経済的な問題にとどまらず、武力を用いた対立につながっていく恐れがある。

 そこで、いま問題になっているのが、経済安全保障すなわち「経済的手段による国益の確保」「経済的手段による他国からの圧力・圧迫に対抗し得る能力」である。「安全保障」という言葉を使うのは、国家の経済秩序や支配秩序を守り、他国からの意図的な政治的価値の強制を逃れるために必要だからだ。


【ESへの対抗策】こうした現状において、わが国が目指すべき経済安全保障の手段は、「戦略的自律性の確保」と「戦略的不可欠性の維持・強化・獲得」である。

 戦略的自律性とは、「戦略的に特に重要な物品を他国に過度に依存しない状態をつくること」である。全て国産にするわけにはいかないので、友好国あるいは信頼できるベンダーとサプライチェーンを構築するフレンド・ショアリング(friend-shoring)も併用する。もうひとつの鍵、戦略的不可欠性とは、「日本の存在が国際社会にとって不可欠な分野を拡大していくこと」である。