■2つの合理性の折り合いが課題


【経済的合理性と安全保障上の合理性】これまで中露に依存することには、価格が安い、供給が安定しているなど、何らかの経済的合理性があった。それをやめて、より高い国産や欧州産のものを買うことには、安全保障上の合理性がある。第二次大戦後の自由貿易では前者を追求してきたが、後者も考えなければならない時代になった。


【国家の合理性と企業の合理性】しかし、企業(経済活動をする主体)は当然ながら利益を追求し、そうやすやすと経済的に不合理な選択はできない。しかも、安全保障とは国の利益であって、企業の利益そのものではない。そこで、国がどういう役割を果たすかが重要になる。こうした状況の中で、22年5月に成立したのが「経済安全保障推進法」である。


【経済安全保障の3要素】経済安全保障には次の3つの要素がある。

❶サプライチェーンの強靭化:中露がチョークポイントを握っている場合、ESを“かまして”くる懸念がある。価値や規範を共有しない国への依存を減らし、リスクを回避するためには、(自国・自社の)サプライチェーンのリスクの現状を把握しておく必要がある。

❷技術不拡散:日本は天然資源に恵まれているわけではないので、戦略的不可欠性を持つには、日本にしかない技術や製品で勝負しなければならない。その技術が容易に盗まれたり、漏れたり、移転されると日本の強みではなくなってしまう。

❸他国の規制からの安全保障:米国が新疆ウイグル自治区の強制労働を禁止する法律をつくった事例のように、他国の法律によって自国の経済が危機にさらされる可能性がある。今回の経済安全保障推進法には入っていないが、今後の課題になるのではないか。

 なお、今回のフォーラムでは、❶に関連して、株式会社FRONTEOが、この7月に機能を拡張し、自社サプライチェーンのリスクマネジメントに利用できる「経済安全保障ソリューション」の実例が紹介された。


 さて、改めて経済安全保障の観点から医薬・医療業界を眺めてみよう。

 まず❶を考えると、各医療領域に必須の医薬品すら供給不安が生じたため、2020年3月から「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」が行われ、翌21年3月に「安定確保医薬品リスト」が作成された。さらに22年3月に開催されたフォローアップ会議では、「サプライチェーンマッピング」のイメージが示された。21年度に抗菌薬の10成分については、「厚労省から各社及び各原薬メーカー等に個別聞き取りし、品目横断的に成分ごとのマッピングを実施した」という。一方、日薬連が行った「安定確保医薬品 自己点検の状況調査」では、自己点検が定着していないという問題が浮き彫りになった。企業レベルでの把握も不十分、それを厚労省が聞き取りしてまとめているのでは埒が明かない。それこそ、企業と国レベルでのAI解析や集約ができればと思ってしまう。

 ❷には戦略的不可欠性が深く関わるが、いま日本発の何が、他国にない技術や製品なのか。例えば2020年の世界市場における医薬品売上高100品目中、日本起源は9品目だった(製薬協・医薬品産業政策研究所調査)。不可欠性を掲げるのは、必ずしも最終製品とは限らず、医薬や医療機器開発過程で欠かせない技術でもよいわけではある。各種の新規モダリティについて見聞きしても評価はなかなか難しいが、「実はこんな製品・技術がありました!」とお伝えできる日が来ることを願っている。


【リンク】いずれも2022年7月25日アクセス

◎株式会社FRONTEO. “FRONTEO AI Innovation Forum 2022(7月12日開催).” “FRONTEO、経済安全保障ソリューションの新機能により、自社サプライチェーンの外側にあるリスクを分析.”

https://ai-forum.fronteo.com/

https://www.fronteo.com/20220712

 

◎鈴木一人. 検証 エコノミック・ステイトクラフト. 国際政治. 2022; Vol.205: 1-13.

https://jair.or.jp/publications/kokusaiseiji/7690.html

 

◎厚生労働省. “医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(第6回)資料(2022年3月25日開催).”→【資料1-1】サプライチェーン調査関係、【参考4】医薬品の安全確保を図るための取組

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24780.html

 

[2022年7月25日現在の情報に基づき作成]

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。