●GE使用促進を通じて薬剤師の資質向上目指すが


 今回のシリーズでは医療費適正化への地域の取り組みとして、大阪府の後発医薬品(GE)使用促進の事業をテキストに考えていくことにしている。


 同事業の旗振り役である大阪府健康医療部薬務課の菱谷博次課長はかつて、筆者の取材にその理念について語ったことがある。要約してみる。


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(2018年度の事業に関連して)府内の個々の薬局に対して、協会けんぽ、大阪府薬剤師会と連携し、17年10月のレセプト情報を材料に、薬局ごとのGEの調剤割合や数量等について個別に郵送した。全国、府内、2次医療圏との比較や、薬効分類別のGE調剤割合など、「自分の薬局がGE使用においてどのような位置づけで、どのように評価できるか」を認識し、今後のGE使用促進の参考にしてもらうためだ。大阪府として、さまざまな分野と連携し、必要な情報を提供していきたいと考えている。


 背景にあるのは、GE使用数量ベース80%という目標を達成できればいいということではなく、薬局薬剤師が自らの職能を活かして、患者への理解を進め、患者が安心してGE使用に切り替えるという工夫など患者満足度の向上が必要ではないかという目的がある。(単に医療費を適正化するだけでなく)調剤の質を確保し、患者の目線で多様な戦略を考えるためにも、保険者との連携も必要だと考える。


 18年度、大阪府では薬局薬剤師が今まで以上に丁寧でわかりやすい説明をするためのパネルを作成し活用することの推進、患者が納得してGEに切り替えた際には、その経過(説明内容・変更したGE名など)をお薬手帳に記載し処方医と情報を共有する事業や、GEに切り替え後1週間をメドに服薬状況や使用感を薬局薬剤師が電話で確認する事業などを実施した。それとともに、GEへの切り替えを拒否する患者の意識調査を実施し、今後の安全使用促進につなげていきたい。80%目標をクリアするために、漫然と患者にGEへの切り替えを求める姿勢だけではダメだと思う。


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 このコメントをみる限り、その事業目的は医療費適正化だけでなく、医薬品適正使用、とくに高齢者のポリファーマシー対策なども視野に入れながら、GE使用促進を総合的な旗印として、究極では薬局薬剤師の資質向上を最終目標にしているような印象が伝わる。そのため、目的に応じたモデル地域での実証的な事業展開のなかに、保険者の参画という刺激を加え、薬剤師だけの自己満足に終わらせない工夫もされていると一定の評価はされよう。


 また、18年度には大阪薬科大学の協力を得て、薬剤師の「説明」の効果を評価するアンケート調査なども並行実施された。これは、次回以後に説明する19年度以降も予定される各種の事業の本格的なレビュー体制の構築につながるものであり、さらには具体的な地域独自事業として当面目指しているとみられるフォーミュラリーの作成の基本的なバックボーンの構築を意識していることが窺える。


●まだ残るGEへの嫌悪感と認識不足


 ただ、そうした背景を理解し、府下の調剤薬局薬剤師に一定のコンセンサスを得ながら事業展開するのは、大阪府という規模を考えると相当な困難も予測できる。


 例えば、8月3日に行われた一連の事業を説明する大阪府薬との共催の薬事講習会には、800人近くの参加者が集まったが、GE使用促進を目的としている講習会への理解を置き去りにして、質疑ではGEにネガティブな主張を繰り返す薬剤師が目立った。


 質問というより、明らかな個人的見解と主張の披露なのだが、こうした声がQ&Aの時間をほとんど消費してしまったことに、傍聴していて大阪府事業の行方に微かな危惧を抱かざるを得なかった。


 このグループの主張は、添加剤の問題は自信を持って患者に説明しきれない、新薬と同等の審査・品質管理という説には疑問がある、GE企業の溶出試験等のデータは信頼できないなど、目新しい反証材料は何もない。GE使用促進が国の政策となって以降、何度も論議されてきたテーマ。しかし、現状ではAGの存在もあるなかで、こうした懸念は根本的に無意味になり始めている。まさに「為にする議論」だ。


 筆者は10年以上前に、何度か薬局薬剤師を対象にした新薬メーカーのセミナーを覗いたことがある。そこでは、声高にGE専業メーカーを貶める発言が遠慮なく語られていた。さすがに当該メーカーの担当者もセミナーの演者もそうしたGE批判は一切しないのだが、まるでサクラのように参加した薬剤師の一部がGE企業を糾弾した。催眠商法のひとつを見せられているかのような錯覚を覚えさせられそうになったほどだ。8月の講習会は、そうした薬剤師のグループが健在であることを垣間見せた。


 少々、首を捻るケースはそれだけではない。例えば9月に大阪府豊中市と豊中市薬剤師会、大阪大学の三者が、薬局を拠点に健康情報を発信する「健康サポート薬局・豊中モデル」発進で協働することに合意、協定書を交わしたときのことだ。豊中モデルは、豊中市が画定している日常生活圏域7地区に1薬局を「健康情報拠点薬局」として位置づけ、当該薬局にデジタルサイネージ(電子掲示板)を設置、医療・健康・福祉情報を市民に発信し、薬剤師が情報に関連した相談や説明にあたるというもの。


 時間はかなり短かったが、協定書調印後の記者会見で、記者の一部からGE使用割合が低い豊中市の現況の改善に、この事業が役立つのかという質問に対し、豊中市薬剤師会の関係者は「大阪が全国より進捗率が低いのは知っている。この事業が促進に反映できればいいと思う」と回答した。実はこれは答えになっていない。


 むろん、大阪府の数量ベースのGE使用割合は19年2月時点で75.0%で、全国平均の77.5%を下回っており、全国順位も43位。ただ、この質問を発した記者は、その大阪府のなかでも同市の進捗率は65%程度で最低ランクであり、全国平均を10ポイント以上大きく下回っていることを前提にしている。市薬幹部はこれを大阪府全体の質問にすり替えたわけだ。


 当該記者が、豊中市が低いということを前提にして質問しなかったのは事実だが、薬剤師会の幹部として、そのことに自覚的であれば、質問の本意は理解できて当然。そう受け取らなかったのであれば、豊中市は薬剤師自体がGE使用促進の政策を理解していないことになる。こうした認識のデコボコがあるなかでの府事業の推進は、ハードルも高いことを予測させるのである。


●意欲はみせるロードマップ


 そうしたいくつかの懸念材料はあるが、大阪府のGE使用促進事業はモデル事業の水平展開へと進み始めている。さらに八尾市ではフォーミュラリーの策定まで具体的な目標が決まっている。


 23年度達成をめざす「使用割合80%達成に向けて」と題されたロードマップは、19年度から5年間の計画を示したものだ(図)。



 このうち、19年度には18年度に門真市、泉南地区で行われたモデル事業の府内全域への展開、岸和田市でのお薬手帳を活用したモデル事業の実施、フォーミュラリー作成も視野に入れた地域懇話会の開催などを予定する。また、「患者が選んだジェネリック見える化プロジェクト」では、18年度までにモデル事業を実施した期間に患者が使用したGEリストの作成を予定している。これもフォーミュラリー作成に向けた動きとして注目される。(幸)