我が横浜DeNAベイスターズが19年ぶりに日本シリーズに進出し、パ・リーグを制覇した福岡ソフトバンクホークスと日本一を争っているが、同じく19年ぶりに再燃しているのがMRの“生産性問題”である。


 10月25日に開催された財政制度等審議会・財政制度分科会では、財務省からMRの労働時間に占める「待ち時間」の割合は21.1%もあり、全産業の7.8%、不動産営業の13.9%と比較すると長すぎることが指摘された。ほかにも、「国際的に⾒ても、我が国製薬企業の研究開発費以外の販管費率は⾼い」ことなどのデータが示され、MRの生産性が低く、営業部門に余計なお金をかけすぎているのではないか?と言わんばかりの資料を見せつけている。 


 19年前に同様の指摘をしたのは、当時、杏林大学医学部医療科学教室の専任講師だった野崎稔氏(現・野崎クリニック院長)だ。1998年当時、私が編集長を務めていた『Strategy』で野崎氏に「新MR改造論」を連載していただいていた。 


 その連載の中で野崎氏は、MRが医薬品情報提供収集活動にかけている時間は全活動期間中の11.7%に過ぎず、不動産営業や自動車販売業者と比較して1/4~1/5の生産性しかないことを指摘し、MRの時間生産性の低さは、以下の意味で重大な社会的損失と言わざるを得ないと指摘していた。 


①非常に優秀な資質を持った技能集団に対する極めて不適切な人的資源利用。したがって、業務に対するロイヤリティーの低さと高い離職率 


②企業のマーケティング戦略の不徹底。したがって、無駄なマーケティングコストの発生 


③医薬品適正使用に関する基礎情報の致命的な伝達不足。しかがって、薬物治療にまつわる事故が未然に防止できない 


 連載から19年が過ぎ、当時は存在していなかったWEB講演会などのIT技術を用いた情報提供の手段が増えたが、根本的な生産性の問題は何も解決していないように思える。 


 いや、MRの仕事は相撲取りと同様に“稽古”に時間をかけ、“取り組み”はあっという間に終わるのである。力士の生産性が低いとは誰も指摘しないではないか、という「MR格闘技論」的な意見もあるだろう。 


 しかし、“キャッシュカウ”として経営を潤してきた長期収載品がその役割を終えた今、多くのMRを抱えるビジネスモデルを維持するのは難しい。財務省に指摘されるまでもなく、MRを削減しても情報提供の質と量が減らない「働き方改革」を構築できない企業は、衰退していくことになる。 


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。