元TBS記者山口敬之氏による『韓国軍にベトナム人慰安婦がいた!』という週刊文春掲載(2015年)の“歴史的スクープ”について先々週、週刊新潮は、取材データを捻じ曲げた捏造記事だった可能性を指摘したが、文春は翌週、反論記事を掲載、今週の新潮はさらなる再反論で応じた。
山口氏の記事は、ベトナム戦争中、現地のある売春施設を摘発した米軍の公文書を根拠としたものだが、新潮はこの文書にある、「韓国軍の施設だ」という文言はあくまで、施設経営者の言い逃れの言葉でしかなく、文書の結論として記された米軍の調査結果では、広く外国人一般が利用する売春施設、となっていることを明かした。
文春の反論は、当該施設はもともと韓国軍施設で、その利用を他の外国人にも拡大して認めていただけのこと、一般の売春施設とは見なし得ない、というものであった。新潮記事によるそれ以外の指摘、米退役軍人など山口氏の記事に登場する証言者が、コメントの歪曲に憤慨していることには言及せず、この論争、やはり新潮サイドに説得力が感じられる。
当の山口氏はこのほど、伊藤詩織さんに対するレイプ疑惑で沈黙を破り、月刊誌「Hanada」に手記を寄せているが、これがもう、詩織さんの人格をひたすら貶める醜悪な代物だ。右派論壇の一部には、氏の復権を応援する動きもあるようだが、神経を疑う。
今週はまた、週刊現代の独自記事『マスコミ嫌いの本人が重い口を開いた 黙々と勝ち続けて当選14回 日本一選挙に強い政治家 中村喜四郎という生き方』が興味深かった。若くして建設大臣も経験した旧田中派の代議士だが、1994年のゼネコン汚職で実刑判決を受け、自民党を離党、1年6ヵ月の服役後は無所属議員として当選を重ねている。過去20年、本会議発言も質問主意書の提出もゼロ。当選回数は小沢一郎、野田毅に次ぐ衆議院3位だが、年齢は68歳と意外とまだ若い。
「私は共謀罪判決でも反対票を投じた。節目節目で、キャリアのある政治家がどういう動きをするのかというのは、見る人は見ています」。汚職事件の報道で徹底したマスコミ嫌いになった人らしく、記事中でも本人の肉声コメントは少ないが、沈黙を続けてきたこの保守政治家に、一度じっくりと今の政治への思いを語ってもらいたい気がした。 週刊朝日『枝野幸男代表は本当に「リベラル」か?』はピンボケ記事。リベラル=護憲という誤った前提で、氏のスタンスを疑っている。3日付朝日新聞に載った保守論客・佐伯啓思氏の寄稿も、まるで違う文脈だが、同様の思い込みのうえに書かれている。
たとえば2年前、安保法制に反対した議論をきちんと見ていれば、リベラルにも改憲派は数多くいたことがわかったはずである。解釈改憲による集団的自衛権反対=絶対的護憲派ではない。保守論者は勝手にそう決めつけ、9条があれば敵は攻めて来ないのか、などと的はずれの揶揄をするが、非武装中立論者など、もはや絶滅危惧種に近い少数派だ。
9条は自国の政府を縛り、他国による侵略には自衛隊と安保で対応する。リベラルでも多数派は、その「両輪」を前提としている。対米自立を目指す目的で、9条の改変を認める人も多い。いずれにせよリベラルは、侵略と被侵略、双方向のリスクを考慮する。米国や自国政府への歯止めなど不要だ、と盲目的に信じ込む現在の政権支持層とは、その点が異なる。たかが70年余りで歴史の教訓を忘れ去る人々こそ、私に言わせれば、よほど“平和ボケ”“お花畑”である。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。