神奈川県座間市のアパートで9体もの遺体が見つかった猟奇的事件。あらゆるメディアの取材が殺到するこの手の重大事件では、どうしても各誌内容は似たり寄ったりになる。そんな中、週刊新潮がワイド的にまとめた特集記事の1本が目を引いた。 


『眠れる快楽殺人者を起こした「白石隆浩」の揺り籠から絞首台まで』という9話で構成する特集のトップに据えられた『50件の返信が殺到した「自殺志願」ツイート実験』という記事。新潮記者が自ら《ツイッター上に“自殺志願者”として投降の“実験”を試みた》体験記である。 


《自殺願望を持った20代女性》という設定でこの記者が書き込みをしたところ、平日の日中にもかかわらず、《5分後には〈解決できる問題ですか〉といった返信が戻ってきた》。“一緒に実行してくれる人はいないか”と書くと、〈睡眠薬有るで〉と書き込む人もいた。別の人物は、自身の姿として初老の男の写真を送り付け、記者に対しても写真を送るよう要求した。富士山麓の樹海で自殺する前に《最後のエッチもしたいです》と書き込む者もいれば、《楽に殺してあげる》などという者も現れた。


 実際に凶行に及ぶかどうかは別として、白石容疑者と似通ったタイプの者たちは、ネットの世界にかくも溢れているのである。今週の週刊文春には、テーマはまるで異なるが、ツイッター上の政治的・社会的発言で“炎上”を繰り返すお笑い芸人の村本大輔氏と社会学者・西田亮介氏の対談が載っている。タイトルは《“不寛容社会”のサバイバル術》。その中で炎上を厭わずに、挑発的書き込みを続ける村本氏が、自身の意図についてこう語っている。 


《ツイッターっていうのはね、ジャングルなんですよ。ジャングルに行って猛獣に襲われたらどう思います? 「そりゃそうだ」って思いません?》 


《ジャングルって本来はキャンプなんかでちょっと遊びに行くところなんですよね。でも、決してジャングルの住人になってはいけないんです。そうなったらお前も人を襲うようになるぞと(笑)》 


 氏の言葉は、ツイッターの世界で誹謗中傷にさらされるリスクに身を投じる“楽しさ”を論じた独特の表現だが、新潮記者の体験記を読めば“ジャングルの猛獣”には時に人の命まで食らおうとする危険種までいることがわかる。とくに未成年の者たちは“ちょっと遊びに行く”だけでも、相当に慎重であるべきだろう。


 今週はもうひとつ、トランプ米大統領の来日も各誌大きく取り上げた。新潮の特集は『「安倍総理」は「トランプ父娘」の靴を舐めたか』、文春のタイトルは『肉だ!ゴルフだ!ピコ太郎だ! 安倍懇願もトランプ「いずも乗艦拒否」の暗闘』。いずれもトランプに媚びを売る安倍首相を皮肉るトーンでまとめられている。


 露払いのイヴァンカ補佐官の来日以来、テレビ報道は仰々しいほどに安倍外交を盛り上げたが、結局大統領の3ヵ国歴訪を振り返れば、米国サイドの気配りは圧倒的に対中国に集中した。安倍首相はトランプに媚び、テレビ報道は安倍政権に媚びる。この痛々しい“おもてなし”の多重構造こそ、今日の日本の悲しい現実である。礼儀知らずの週刊誌報道がまだ消滅せずにいることが、せめてもの慰めに感じる。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。