前回、看取りについての評価が患者の主観的なアウトカム重視に傾くのではないかと指摘したが、11月18日付の毎日新聞によると、総務省消防庁から委託された研究班がまとめた高齢入所者が心肺停止した場合の対応手順案では、蘇生を中止できる条件が示されたという。2018年度の診療報酬改定に向けて、順調に外堀を埋められている印象だ。
最近出会った面白いコンセプトにガートナー社の「ハイプ・サイクル」というものがある。“サイクル”と言えば「製品ライフサイクル」(導入期→成長期→成熟期→衰退期)が有名で、マーケティング担当者は、担当製品の適応追加などを含めたライフサイクルマネジメントに命を懸けていると思うが、ハイプ・サイクルも今後は戦略上、重視されていくのではないかと期待している。
ハイプ・サイクルとは、「市場に新しく登場したテクノロジーがまず過熱気味にもてはやされ、熱狂が冷める時期を経てから、市場が確立し、市場分野における意義や役割が理解されるようになるまでの典型的な経過を、横軸に『時間の経過』、縦軸に『市場からの期待度』を表す波形曲線で示したもの」(ガートナー社)とされている。
新規テクノロジーは市場に受け入れられるまで、5つの段階 (黎明期→「過度な期待」のピーク期→幻滅期→啓蒙活動期→生産性の安定期)をたどるという。
ちなみに、「人工知能」が今まさに「過度な期待」のピーク期”にあり、「ビッグデータ」が“幻滅期”にプロットされている。
多くの人は“映画の観すぎ”で人工知能に過度な期待をしているが、人工知能は魔法の杖ではない。子供に自転車の乗り方を教えるように、根気よく教え続け、育てる気持ちがなければ使えるまで発達しない。そのため、今後は「幻滅期」に入るが、根気よく使い続けた企業の成功事例が「啓蒙活動期」に続出することになるだろう。
このパイプ・サイクルを眺めていて、テクノロジーに限らず、企業サイドからみた“地域包括ケアシステム”も同じようなサイクルをたどるのではないかと感じた。
地域包括ケアも人工知能と同様に、今は“「過度な期待」のピーク期”にあると思う。一部の企業が真剣に取り組むが、その他の多くの企業は地域包括ケアを静観するだろう。そして、地域包括ケアへのコミットを、医薬品の売り上げに結び付けられずに「幻滅期」に入る。しかし、辛抱強く地域医療に貢献し続けた企業の活動が各自治体・医療機関に評価されることで「啓蒙活動期」に入る。
重要なことは、途中でやめないことだ。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。