今週はサンデー毎日でジャーナリスト・青木理氏がスクープ記事を書いている。『「日米同盟」の“暗部”闇に葬られた国家機密』。「現役自衛官が実名告発!」と銘打って、情報本部・統合情報部員だった3等陸佐・大貫修平という人物が、自らにかけられた「濡れ衣」の不当性を訴えている。 


 防衛省情報本部は、陸海空自衛隊に分散していた情報関連組織を20年前に統合した情報機関である。2015年9月、安保法制の国会審議で発せられた質問が、この組織に激震を与えた。質問者は共産党参議院議員の仁比聡平氏であった。


「重大問題ですよ。とんでもない話です!」。仁比議員はそう言って政府に詰め寄った。前年の12月、訪米した統合幕僚長が米陸軍参謀総長との会談の席上、安保法制について「来年夏までには終了するものと考えている」と見通しを告げていたというのだ。それを示す機密文書を、仁比議員は握っていた。


 法案内容の検討も与党協議もまだ行われていなかった時期。防衛省の一幹部が勝手に口走っていい話ではなかった。中谷元防衛相や安倍首相は、省内にこの資料と「同一のものはなかった」と摩訶不思議な答弁で誤魔化したが、防衛省内では、この質問直後から情報漏洩者の“犯人捜し”が始まったのだった。 


 存在しない機密を漏洩した疑惑――。最近は我々ももう、政府のウソに慣れ過ぎて、感覚がマヒしかけているのだが、組織が犯人捜しをする以上、問題の機密情報は存在したのである。そして目をつけられたのが、この情報に接し得る立場にいた大貫3佐であった。 


 3佐はポリグラフにかけられ、自宅官舎と実家での家宅捜索まで受けたが、一貫して容疑を否認し続けた。刑事手続きは嫌疑不十分で不起訴。にもかかわらず、3佐は懲罰人事で左遷されてしまった。本人はこれを不服としてこの3月、国を相手どり損害賠償請求に踏み切ったのだった。 


 日米同盟の歪んだ内実から虚偽答弁、情報隠蔽など、現政権の抱える悪しき体質を、幾重にも示しているこの問題、スクープ記事は次号にも続く形で終わっている。


 それにしても、このような国の暗部そのものにメスを入れる取材記事が、週刊誌報道に極端に少なくなっていることが残念でならない。下半身のスキャンダルより、税金の使途にかかわる法的な疑惑追及記事。一政治家の不祥事より、政策決定にまつわる組織的な問題。後者ほど報道の価値は高く、重大事件になるはずだが、現実のニュース価値は正反対になってしまっている。卑近でゲスな話ほど大きなニュースになる。隠し撮りの音声や映像でもあれば完璧である。権力構造に触れるような話だと、近ごろの報道は途端に臆病になり、押し黙ってしまうのだ。 


 真っ当なジャーナリズムの物差しを何とか保とうとするサン毎の姿勢には賛辞を贈りたいが、そのスタンスが部数増につながって行かないのが、何ともやるせない。組織的な疑惑より、ひたすら“許せない個々人”を糾弾する。報道だけでなく、近ごろはこの国全体が、そんな歪なムラ社会へと退化しつつあるように思われてならない。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。