先頃、厚生労働省が9月の有効求人倍率を発表した。それによれば、有効求人倍率は前月と同じ1.52倍で、なんと1974年2月以来43年5ヵ月ぶりの高水準だった。むろん、「求人難」。完全な売り手市場である。 


 周知のように求人倍率は、求職者1人に対し何件の求人があるか、という数字で、景気を判断する指標の1つでもある。早速、エコノミストが「景気は着実に改善している」と解説し、アベノミクスの生みの親、浜田宏一・エール大学名誉教授は「もともとアベノミクスは所得を増やしたり失業を少なくしたりするために物価目標を掲げるべきだと考えたもの。物価上昇率2%を実現できなくとも、雇用がいいならそれでいい」と語っている。 


 だが、景気回復を実感されているだろうか。求人難なら新入社員の給与が上がるし、アルバイトの時給も上がる。それに連れて一般社員の給与も上がるはずだ。ところが、給与の上がり方は微々たるもので、むしろ、生鮮食品のほうが値上がりしている。景気回復の実感がないのになぜ求人難なのか。三流大学の経済学部教授に聞いてみた。


 三流大学を選んだ理由は、国公立大学や一流私大には好景気、不景気にかかわらず大企業からの求人がある。ところが、三流大学では好景気なら大企業からも求人がくるが、不景気なら大企業からの求人はパタリとなくなってしまい、景気に敏感なのだ。さらに短大から4年制大学に昇格した大学では就職は学生任せではない。春休み、夏休みともなれば、教授が知人や友人のいる企業を回り、「わが校の卒業生を採用してほしい」と頼み歩いているのである。 


 教授は「統計上の数字は求人倍率が高い求人難ですが、この求人難は少子高齢化によるもので、景気とは関係ありませんよ」と突き放すのだ。


 「団塊の世代が65歳以上になり全員が退職。各企業でぽっかりと社員不足が起こり、求人数が増えただけです。しかも、少子化が進み、大学を卒業する学生も減っている。さらに顕著なのが、それまで高卒を採用していた企業が少子化で高卒自体が減少。やむなく高卒がやっていた仕事を大卒にやってもらうしかなく、大卒の募集に切り替えた。結果、大卒の求人が急増。求人難が起こっているだけです」 


 昔も「ダイヤモンド」などと中卒を持て囃した時代があり、高卒を採用して中卒でできる仕事を高卒にやらせていたが、今はそれが大卒に移ったそうだ。むろん、卒業生は高卒がやっている仕事を大卒にやらせようとしていると肌で感じて就職しない。そういう企業の採用難が続き、嫌でも求人倍率を引き上げているという。  政府、エコノミストは求人難を景気回復の証拠と喧伝するが、就職現場の声は少子高齢化がもたらした求人難という。現場からの声のほうが正確なような気がする。(常)