経産省の関連団体から助成金を不正に騙し取ったとして、スパコン開発会社社長・齊藤元章容疑者が東京地検特捜部に逮捕された事件で、週刊文春が『4億円詐取逮捕 スパコン社長を「先生」と絶賛した麻生太郎』という記事を掲載した。


 事件そのものは金額を水増しした実績報告書で過大な助成金を受け取った、というシンプルなものだが、容疑者がNHKの人物ドキュメント『プロフェッショナル』の対象にもなるような(放映は中止)業界の風雲児で、なおかつ麻生太郎氏をはじめ、政界中枢と深く関わりを持つことから、捜査の広がりという点で注目されている。 


 とくに周辺人脈で興味深いのが、週刊新潮で「安倍首相ベッタリ記者」とされてきた山口敬之氏、伊藤詩織さんへのレイプ疑惑で批判を浴びている元TBS記者との関係だ。フリーになった山口氏の月額190万円もの事務所費を払っていたのが齊藤容疑者で、山口氏は容疑者と麻生氏など有力政治家の間を取り持った、とされている。 


 我ながら意地の悪い見方だと思うが、今回、この文春記事に目を留めたのは、事件そのものより、山口氏の存在にどう触れているのかに興味があったからだ。 


 これまでの経緯を見ておくと、そもそも氏のフリーデビューを支えたのが文春であった。TBS在職中、自局番組では没になった「ベトナム戦争中、現地に韓国軍慰安所があった」とするレポートを文春に発表、これがきっかけで退社後に、親密な安倍首相からの情報で政治記事を書いたり、首相にまつわる本を出版したりして活躍するようになった。 


 ところが今春になって、週刊新潮が氏のレイプ疑惑を報道、その逮捕が直前に中止された政治的背景などが注目されるようになった。新潮はさらに、氏の韓国軍慰安所報道に関しても捏造疑惑を追及する記事を掲載した。 


 一方文春は、捏造問題では反論記事を出し新潮と対峙しつつ、詩織さん事件に関しては沈黙し、かと思えば、彼女が執筆したレイプ疑惑の告発本『ブラックボックス』を自社から刊行してみせるなど、微妙なスタンスを取り続けてきた。 


 そして今回の記事が出たわけだが、そこでは思っていた以上にハッキリと山口氏の存在を書いていて、詩織さんの件に関しても《性暴力疑惑(不起訴)が明るみに出て、山口氏は報道の表舞台から姿を消した》と触れている。几帳面に(不起訴)と付けるところに、気の遣い方が見て取れるが、それでも最近氏がジャーナリスト活動を再開したことを、安倍首相が迷惑がっていることにも触れるなど、もはや山口氏の問題では、ハッキリと距離を取るスタンスを示している。


  片や今週の新潮では、山口氏が昨年、シンギュラリティ財団という人工知能にまつわる団体を立ち上げて、その理事に齊藤容疑者もいることなどを報道し、特捜部の捜査が山口氏周辺にも及ぶ可能性を指摘している。文春がここに来て、ある程度踏み込んだ記事を書いたのも、今後、そうした展開になる前にスタンスを明確にしておこう、という判断だったのかもしれない。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。