古くから伝わる病気や医療の常識は、もともと間違っていることもあれば、研究の成果によってスタンダードが変わることもある。ときには大人と子どもで、病気への対処法が異なることもある。 


『子どもの病気 常識のウソ』は、小児医療の世界で、一般の人々が(ときにはプロの医療関係者でさえ)、誤りがちな病気の常識を集めた一冊だ。


 ありふれた病気から、ワクチン接種、アレルギー疾患、夜尿症など、親の関心が高い分野、小児がんなど深刻な病まで、本書が扱うテーマは多岐にわたる。 “常識のウソ”がまかり通っている分野で、代表的なのが風邪だろう。実は、〈風邪に有効な薬はほとんどない〉。 


 2015年ごろまで風邪でよく処方されていた塩化リゾチーム(ノイチーム、レフトーゼ、アクディームといった商品名のほうがわかりやすいかもしれない)の薬効が否定され、2016年春から販売中止。〈2019年からは、咳止めのコディンが12歳未満で使用禁止〉になるという。 


 以前から乱用や耐性菌リスクが懸念されている抗生物質についても、〈風邪に抗生物質は「百害あって一利なし」〉と容赦ない。


 もちろん著者は、抗生物質が必要な病気に対して使うことは認めているが、〈ジグソーパズルの空いている所を埋めるように、適切なものを使用しなければ何の意味もない〉。 


 では、風邪をどう直すか?


〈暖かくして、よく食べ、たっぷり寝て、風呂で体をきれいにすること〉。「当たり前だ」との声も聞こえてきそうだが、その〈当たり前のことが意外とできていない〉のだという。 


■子どもの虫垂炎は怖い


「おたふく風邪ワクチン」が任意接種になった経緯やリスクと効果、インフルエンザワクチンの有効性に関する考察は非常にわかりやすい。最終的には自己(親の)判断だが、一読することをお勧めする。 


 アトピー性皮膚炎や食物アレルギーといったアレルギー性皮膚炎は、今や「珍しくもない病気」といっても過言ではない。すっかりわかったつもりになっていたのだが、内服薬と軟膏のステロイド剤のリスクの違いなど、参考になる情報も多かった。 


 まったく認識がなかったのが、子どもの虫垂炎のリスク。自分は「“モーチョー”は簡単に治る病気」という認識(多くの人もそうだろう)だったのだが、〈子どもの虫垂は大人と比べて壁が薄いために進行が極めて速い〉ことから〈医師が判断に迷って一晩様子を見てしまうと、翌日には虫垂が穿孔してしまうこともある〉という。 


 多くの大人のイメージとは異なる恐ろしい病気なのだ。治療の歴史も含めて、子どもの虫垂炎を扱った18章は、非常に興味深く読んだ。


 本書は、子を持つ親にはもちろん有用な一冊なのだが、ぜひ読んでほしいのが、企業や団体などの組織人だ。 


 子どもの発熱や急病で、急遽、休暇をとったり帰宅したりという親も多いのだが、最近は未婚や晩婚で子を持たない人も増えていて、子どもの病気への理解が得られないケースが増えているという印象を受ける。子どもの病気を知り、共感できる組織人が増えると、マタハラや職場のギスギス感も少しは減るのではないだろうか。(鎌) 


(書籍データ)

子どもの病気 常識のウソ

松永正訓著(中公新書ラクレ840円+税)