ユート・ブレーン時代に『アプローチ』の編集長をしていた頃は、年初に“予想”をするのが恒例だったが、誌面の都合で毎年10個程度しか提示できなかった。しかし、ネットでは文字数の制限を受けないため、考えたすべてを提示することができる。
①新薬創出加算の抜本的な見直しにより、薬価が急落した先発医薬品には、プロモーションコストをかけなくなる→大リストラスタート
②逆に後発医薬品メーカーが差別化のためにWEB講演会を含めたe-プロモに力を入れてくる。それができない企業は衰退
③高額な医薬品は“キャズム”を越えるために、これまで以上に“e”に投資する
④ダブル改定の影響で在宅医療と多職種連携が拡大し、医師との面談機会が減少する
⑤院外処方箋への検査値印字などの薬薬連携が拡大するため薬剤師マーケティングが重要になる
⑥地域包括ケア病棟でも各種加算が算定できるようになり、地域包括ケア病棟の届出数が増加すると同時に“減薬”の動きが拡大する
⑦地域包括ケアへの対応の成否により医薬品卸の利益率格差が拡大する
⑧WEB講演会を実施する製品(主に新薬創出加算対象品目)については、インパクト率などのアウトカムが重視される。
⑨退院後等のアドヒアランスが重視され薬剤師外来を導入する病院が増える
⑩介護分野で評価される「自立支援」に効果が見込まれる“減薬”が評価され「5種類」以内の投薬割合が急増する
⑪エリア・マーケティングにお墨付きをもらうために自治体と「連携協定」を結ぶ製薬企業が増える
⑫大手製薬企業が切り離した長期収載品が値崩れを起こし、その影響で後発医薬品企業の利益が大幅に縮小する
⑬「かかりつけ医」の定義をめぐり各地域での議論が活発化する
⑭1つのチーム医療・多職種連携のメンバーに限定した“マイクロ勉強会”が高い評価を得る
⑮働き方改革の影響でリアル講演会・研究会を削減する動きが加速する
⑯働き方改革で短縮されたMRの労働時間を補うためのソリューションを提示したCSO企業が注目を集める
⑰AIを対医師・薬剤師等に活用する製薬企業が増える
⑱データヘルスの影響で生活習慣病の重症化予防についてはヘルステック企業に医師への面談機会を奪われる
⑲病床再編・診療報酬改定の流れで「再入院率」を臨床指標に掲げる病院が増える
⑳経済産業省が導入をもくろむ「仕事付き高齢者向け住宅」やダブル改定による看取りの評価等により“死生観”や“仕事とは”に関する議論が深まる
㉑優秀なMR・営業所長はますます貴重な存在となり報酬が青天井になる
3番目に出てくる「キャズム」だけは説明しておきたい。キャズムとは、イノベーター理論の5分類の中で、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティーの間の大きな溝のことである。このキャズムを越えないと、その技術(商品)は普及しないと言われており、医療用医薬品の普及に関しても、同様のキャズムが存在すると思っている。
今年はリストラも拡大し、厳しい環境になることは間違いなさそうだが、逆に優秀なMRにとっては評価が高まる年になると思っている。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。