薬、栄養ドリンク、サプリ、マッサージ……と、「疲労」に焦点を当てた商品やサービスは数多ある。何が原因ということでもなく、いつも疲労感を感じている人が多いからだろう。そんな疲れに焦点を当てたのが『隠れ疲労』だ。


 ただの「疲れ」と侮るなかれ。〈特定の病気ではないにもかかわらず疲れの症状が長期間続く〉、いわゆる慢性疲労は〈命の危険にさらされ〉た状態である。〈心筋梗塞や脳梗塞になる可能性が上がり、生活習慣病のリスクも高ま〉るという。 


 そもそも、〈疲労は「発熱」「痛み」とともに、身体からの「三大生体アラーム」〉とされている。本書で取り上げられている「疲労のサイン」も〈電車に乗ると、次の駅に着くまでに“寝落ち”する〉ほか、思いあたるようなものばかり。(〈ツーンとする体臭がする〉覚えはないのだが、臭いは自分で気が付きにくいもの。知らぬ間にきつい臭いを出しているのかもしれない)。 「それだけ」といえばそれだけなのだが、〈基本的に疲れというのは、睡眠によってしか回復しません〉という。疲れたら寝るしかないのだ。


 もっとも本書が指摘するように、疲労に関して、誤解は少なくない。


 例えば、仕事の後のジム通い。自分の場合、気分転換になるし、体も軽くなったような気がしていたため、「仕事の疲れと運動の疲れは別もの」と考えていた。 


 だが、〈運動による疲れも、デスクワークの疲れも、対人ストレスからくる疲れも、あらゆる疲れの源は同じ〉。〈すべての疲れは「足し算」で増えていく〉という。仕事で疲れたと感じたら、しっかり休んだほうがいいのだ。 


 かねて〈筋肉に関する「疲労物質」〉として知られてきた乳酸も、今は〈細胞の疲弊を保護する働きがあり、疲労回復のエネルギーとして使われていることが分かって〉いる。 


■疲れが取れる!? 夫婦別床の効果


 疲れた人は何を食べるべきか? 本書では、栄養ドリンク、焼き肉、うなぎなど、多くの人が頼ってきた食品類の効果については、疑問を呈している。 


 著者は〈バランスの良い食事〉を前提に、近年効果がわかってきた、抗疲労成分「イミダペプチド」や「クエン酸」などを推奨する。


 これらの成分にはサプリもあるが、それほど無理をしなくても普通に食べ物から必要量をとることができる。 


 本書にも多くのレシピが紹介されているので、あえてサプリに頼る必要もないだろう(以前も書いているが、サプリなど特定成分を濃縮したものについては、安全性がわからないことも多いので、基本的に私はサプリ使用に消極的だ)。 


 終盤では、「睡眠」の質を上げる方法が紹介されている。 


 生活習慣や、風呂の入り方・温度、照明の色など、詳しくは本書を参照していただきたいが、気になったのが、「夫婦別床を試してみる」だ。 


 確かに〈男女で快適な温度が違う〉し、正直、特別大きなベッドでなければ、別床のほうが体を動かせる範囲も広い。「大の字で寝たい派」という人もいるだろう。 


 肌感覚だが、40代、50代のベテラン夫婦なら、案外簡単にパートナーに夫婦別床を合意してもらえるのではないだろうか。疲れが取れる代わりに、熟年離婚のリスクが高まるのかもしれないが……。(鎌) 


<書籍データ>

隠れ疲労

梶本修身著(朝日新書720円+税)