年末年始の帰省で久しぶりに会った老親、その行動や様子を見て「昔はそうじゃなかったのに……」と感じた人は少なからずいるだろう。
かく言う私もそのひとり。
昔、父親がぼやいていた祖父の姿に、父親自身がそっくりになってきたのである。肉親でなくとも、日頃、「同じ話を何度もする」「約束を忘れている」「驚くほど早起きして活動する」といった老人に出くわすことは珍しくない。
なぜ、老人は“困った行動”に走るのか、その真実に迫ったのが『老人の取扱説明書』である。
本書は、老人の困った行動を「いじわる」「周りが大迷惑」「見ていて怖い、心配……」といった観点で分類し、典型的な16の〈老化の正体〉を解説していく。豊富な臨床経験を持つ著者ならではだが、本書の説明はとにかく具体的だ。
例えば、高齢者は相手の話を無視することがある。〈「本当に話が聞こえない」人が多い〉のは理解できるとして、「自分の声だけ聞こえていない」、もしくは「無視された」と感じたことがないだろうか?
実は、〈年を取って難聴になると、「ほとんど聞こえない」のではなくて「一部聞こえにくくなる」のです。高い音、特に若い女性の声が聞きにくくなります〉という。そのため、〈娘や嫁の会話だけ無視されることが多い〉のだという。
諸々の困った行動に対して、著者は周囲の人の対処法や接し方を提示する。例えば、前述の難聴の高齢者とのコミュニケーションをとる際は、〈低い声で、ゆっくり、正面から〉がコツだ。
確かに介護の現場で見た介護士たちは、正面からゆっくりと話しかけていいた。
■いずれは誰もが高齢者に
冒頭書いたように、父親が祖父のようになったということは、遅かれ早かれ、いずれは自分も高齢者になり、困った行動をとる可能性があるということだ。 「将来、困った老人になりたくない」という人は、各「老人のよくある困った行動」ごとに設けられた、〈自分がこうならないために〉が参考になる。食事法や生活習慣、ちょっとしたトレーニングなど、日々実践できる予防法が紹介されている。
併せて、自分や家族が困った行動をとるようになってしまったときの対策についてもふんだんに記されている。
高齢者と暮らしたり、長い時間過ごす人にとっては、必読の1冊。周囲の人々が、実戦的なノウハウを学べるだけでなく、イライラしたり、怒ったりしにくくなることで、高齢者も気分よく過ごせるはずだ。
ところで、我が身を振り返れば、最近すっかり人やモノの名前が口から出てこなくなったのだが、著者によれば、〈年を取ると「あれ」「これ」「それ」が増えるのは記憶力の問題だけではなく、記憶をたくさんしているからということもあります〉だとか。
これから、諸々の失念の言い訳に使わせてもらおうと思う。(鎌)
<書籍データ>
『老人の取扱説明書』
平松類著(SB新書800円+税)