先週の小室哲哉氏報道の波紋が尾を引いているのだろう。今週の文春の誌面作りはおとなし目で、ライバル誌新潮も他社のこととはいえ、異性スキャンダル報道への世論の風向きを見定めている雰囲気がある。


 というわけで、今週、両誌が共通して取り上げたのは、秋篠宮家の長女・眞子さまの婚約者となった小室氏の家庭が抱える金銭トラブルの問題だ。文春は『秋篠宮家眞子さま婚約者 小室圭さんの憂い』、新潮は『「眞子さま」嫁ぎ先に「紀子妃」ご心痛 「海の王子」母親の「援助交際」トラブル』というタイトルをつけている。 


 ニュースソースがダブっているのだろう。どちらの記事も内容はほぼ同じで、小室さんの母親がとある男性と婚約し、息子の学費や生活費など金銭の無心を次々と重ねた末、男性側とトラブルになってしまった、という話だ。皇族の結婚相手に相応しい家族なのかどうか、品定めする見識も趣味も持ち合わせていないが、記事を読む限り、小室さんの母親は“ちょっと嫌な感じ”であり、女性側が皇族であろうがなかろうが、付き合うのに苦労しそうなキャラクターに思える。 


 考えてみれば、皇族に近づいて“素の人柄”を見せる人などまずいないはずだし、その意味で皇族側からの人品の見極めは相当に難しいことだろう。その苦労が察せられる。 


 文春はこのほかに、『フジ“夕方ニュースの顔”に抜擢 NHKの麿登坂淳一のセクハラ重大事件』というスクープ。これは異性スキャンダルと言っても相当悪質な迷惑行為であり、いわゆるゲス不倫報道的のぞき見趣味の臭いはない。


  で、「ウチは硬派の調査報道もやる」というアピール感のある記事として、文春は『加藤勝信厚労相はマルチ企業の広告塔!』、新潮は『「茂木大臣」が尻から煙の「買収線香」』という政治家批判を載せている。ただ、正直どちらも“小ネタ”である。


  権力に斬り込む体の報道として、政治資金規正法や公選法は確かにチョンボを見つけやすい切り口だが、この手の素行問題をつつき回しても、権力構造の内側にはなかなか向かわない。たとえば伊藤詩織さん事件で、新潮が警視庁幹部に逮捕状の執行停止命令を認めさせた報道があったが、こうした“権力に潜む闇”に迫ってこそ、調査報道であるはずだ。昨今は“あんな人”が国税庁長官になったり、司法の独立がもはや存在しないような雰囲気が漂ったり、溜まりに溜まった膿が噴き出しそうな問題はさまざまあるように思える。


  それにしても、小室氏不倫報道をめぐる世論の反発の衝撃である。あれほど文春砲をありがたがり、不倫ネタを楽しんでおきながら……と世論の身勝手さに呆れる気もするが、果たして昨今の“不倫警察”路線をやめてしまったら、文春砲の迫力はキープできるのか。 


 後付けの論評ではあるのだが、小室氏の取材プロセスがあのような展開になった以上、2~3週掲載を遅らせてでも軌道修正し、単純な不倫糾弾記事にせず、より深い人生の苦悩を掘り下げる告白手記形式にすれば、もう少し共感の得やすい記事になったような気もする。それだけに“いつものパターン”にしてしまったことが、どうにも残念である。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。