横綱の相次ぐ休場で暗雲漂っていた大相撲初場所は、栃ノ心の優勝で少しほっこりした幕切れとなった。あるべき論に縛られた横綱と異なり、優勝できて「本当に幸せ」という素直な言葉が新鮮だった。とはいえ、指導と暴力の境があいまいになりがちな相撲部屋の課題が解決されたわけではない。
◆第2期に入ったスポーツ基本計画
スポーツ振興活動や、日馬富士の暴力問題やカヌー薬物問題への苦言など、良きにつき悪しきにつけ鈴木大地スポーツ庁長官が登場する場面が増えた。「忙しそうだなぁ」くらいの気持ちで眺めていたが、気がつけば既に2017~2021年度を実施期間とした第2期スポーツ基本計画も作成されている〈下図〉。
主な施策の4番目が『クリーンでフェアなスポーツの推進』であり、「コンプライアンスの徹底、スポーツ団体のガバナンスの強化及びスポーツ仲裁等の推進」の一環として、「スポーツ団体の組織運営をモニタリング・評価し、必要な助言・支援を実施」していることが、長官の活動として表れているのだろう。
国内外水泳連盟の役員を歴任した鈴木長官は、「スポーツに精通し、リーダーシップとガバナンス能力を備えた人材」として登用されたという。日本相撲協会の理事選をめぐり、外野の報道が喧しいが、伝統的な競技であっても、もはや精神論や個人の信念のみに基づくやりかたでは力士の指導も組織運営も成り立たない時代になっている。
施策の3番目は『国際競技力の向上』だ。直近の話題では、卓球やフィギュアスケートなどで10代半ば前後の若者の台頭が目立つ。競技力もさることながら、試合の客観的反省や今後の抱負などをしっかりと語る姿は大人顔負けで、“真央ちゃん”と呼ばれていた頃の浅田選手が次の目標について「ノーミスして…」と繰り返していた時代を思い浮かべると隔世の感がある。とはいえ、まだ人生経験の少ないティーンエイジャーには違いない。スポーツ医科学のエビデンスも駆使して、若い選手の心身をサポートしてほしいものだ。
◆2020年東京五輪のレガシーを“健康”に
さて、施策の第1に掲げられているのは『「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画人口の拡大』だ。スポーツの語源のdisport(仏語由来の中世英語)は「何らかの活動をして楽しむこと、気晴らし、娯楽」を指す。鈴木長官は昨秋、2015年10月の同庁発足から2周年の記者会見で、こうした意味でスポーツを捉え直し「スポーツのイメージを変える必要がある」、「個人の楽しみとして行うヨガやダンスや気晴らしのための散歩も立派なスポーツ、体力向上のための意識をもった階段の利用や布団の上げおろしにもスポーツの要素がある」と語った。「スポーツをすることによる個人の楽しさや喜びだけでなく、心身の健全な発達や健康・体力の増進、生活習慣病の予防、健康寿命の延伸は医療費抑制にもつながる」、「東京五輪の遺産を“健康”にしたい」とのビジョンも示した。
この施策と関連がある今後のビッグイベントとして注目したいのが、2021年開催の『ワールドマスターズゲームズ関西』。これは「概ね30歳以上のスポーツ愛好者であれば誰でも参加できる生涯スポーツの国際競技大会」だ。35競技55種目の開催地が公表されており、陸上、水泳、通常のボール競技のほか、ダンススポーツや綱引き、オリエンテーリング、ゲートボールなどもある。参加者募集を開始する2019年11月頃には、スポーツ基本計画の施策がうまく浸透しているか、広報等の盛り上げ戦略はどうか、大会の動向を見守りたい(玲)。
出典:スポーツ庁「第2期スポーツ基本計画のポイント」 http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/1372413.htm