沖縄に来ている。4日の日曜日に投開票がある名護市長選挙の様子を見るためだ。前回まで自主投票だった公明が今回、自民系新人候補を推し、辺野古新基地に反対する現職と推進派の新人、どちらに転んでもおかしくない状況になっている。 


 それにしても奇妙な選挙戦である。新人の応援には、小泉進次郎氏ほか自民党大物が続々駆け付けるが、遊説では辺野古の「への字」も口にしない。 


 候補者本人が、この選挙で辺野古問題を封印しているのだ。マイクを持ち、市民に訴えるのは「名護市はゴミの分別が細かすぎる」といった拍子抜けする話。遠路はるばるやって来た小泉氏も三原順子氏も小渕優子氏も、国政とはまるで関係のないこの町の“ゴミ分別法をめぐる戦い”に加勢しているのである。 


 もちろん新人の支援者は、すべてをわかっている。国からの見返りも期待している。前回名護市長選の際には、官邸から膨大な機密費が流れた、と関係者が実名で証言した。今回はどうか。何にせよ、肝心の議論を一切せず、国が総力を挙げ、異論を潰そうとする。グロテスク極まりない光景である。 


 名護市長選については、週刊文春の「THIS WEEK」欄が短く触れている。《「国の交付金をちらつかせて地元業者を抑えつつ、小泉進次郎の人気と公明党の組織力に依存する(略)負ければ影響は中央にも波及する」(自民党関係者)》。ただ、自民系候補が負けた場合、国は間違いなく「地方選挙は国政と関係ない」と言うだろう。いつものパターンである。 


 さて、先々週の小室哲哉氏不倫報道によるまさかの文春への逆風だが、その波紋はなかなか大きそうだ。有名人の不倫問題を今後どのように扱うか、各誌、しばらくは模索が続くだろう。文春の新谷学編集長自身、カンニング竹山氏とのトークイベントで「不倫摘発雑誌のようにとらえられるのは切ない」と苦悩を明かしている。 


 ジャーナリスト・青木理氏はサンデー毎日のコラムで、《(文春に反発する)気持ちはわからなくもない(略)ただ、「文春を潰せ」などという言説まで飛び出ると、ちょっと待てよとも言いたくなる》と釘を刺している。有名人のスキャンダル報道では、所属芸能事務所の力によって批判のされ方がまるで違う。そんな現実にも触れたうえで、ことは《それほど簡単な話》ではない、と青木氏は言う。 


 ゲス不倫を「けしからん」と総攻撃する人も、小室氏を引退表明に追い込んだ文春を「潰せ」と叫ぶ人も、もしかしたらある程度、重なるのかもしれない。ここに来て、そんなことも思う。両者に共通しているのは、異常なほどのモラルへのこだわりと攻撃性である。しかもその正義感は、社会の不公正などの“大きな話”には決して向くことがなく、あくまで個人の立ち居振る舞いに向けられる。 


 ネット時代にとくに目立つようになった、このヒステリックな集団心理こそ、近年の日本を蝕む病巣のように思う。沖縄で米軍ヘリの部品が保育園や学校に墜ちれば、「どうせ自作自演だろう」と嫌がらせの匿名電話が被害者に殺到する。浅薄な正義感でデマを信じ込み、他者を攻撃する。沖縄に身を置くと、病める日本の恐ろしさがよく見える。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。