会社と契約している保健師さんに呼び出しを受けた。人間ドックの結果で、体重が増えたことと中性脂肪の値が高かった、つまり“メタボ”だったからだ。


 将来の病気のリスクを丁寧に説明されたのだが、そういえば、このところ心臓や血管の病気を追っかけていなかった。そこで、「最近の動向を手っ取り早く知りたい」と手に取ったのが『血圧と心臓が気になる人のための本』である。


 本書は、一般読者が関心を持ちそうな、22の疑問に答える形で、高血圧や心臓病の全体像や最新の知見を解説していく。平易かつ、コンパクトなわりに中身は非常に充実している。


 長年、医療の報道に携わっていても、常に誤解や勘違いはあるのだが(もちろん記事にする場合は、ミスが起こらないよう入念に確認作業を行う)、本書は数々の認識違いを正し、古い情報を更新してくれた。冒頭の〈高血圧の薬、一度始めると一生飲み続けないといけないの?〉もそのひとつ。


「薬は一生飲み続ける」というイメージでいたのだが、実際には<降圧薬中止後、体重のコントロール、塩分制限、禁酒の3つを行うと、4年後には39%の人の血圧が正常に維持されていた〉という。


 当たり前のように使っていた、「上の血圧、下の血圧」「HDLコレステロール、LDLコレステロール」といった基本的な用語についても詳しく解説されていて、知識の整理に役立った(血圧計の仕組みや、アナログの血圧計で医師が行っている所作の意味もよくわかった)。


 ちなみに、「善玉コレステロール」とも呼ばれ、体にいいイメージがあるHDLコレステロールだが、必ずしもそうではない。実は〈運動などの生活習慣の改善で上がるHDLコレステロールはいいコレステロール。一方、「現時点では」(中略)薬で上がるHDLコレステロールは悪いコレステロール〉なのだという。


■ゴルフは心臓発作を起こしやすい⁉


 生活習慣や運動についても細かく言及されている。


 1960年代にプロレスを見ていた高血圧のお年寄りが、かみつかれて流血するレスラーを見て、脳出血で死亡したことがあったが、同様の話は現代でも起こっている。ドイツのミュンヘン市での研究によると、〈サッカーWカップが開催された2006年には心筋梗塞の件数が高くなる日が数日あります。この日が見事にドイツチームの試合の日と一致〉していたという。しかも、競合との対戦の日ほど心筋梗塞の件数が跳ね上がっていた。  心臓に病気を抱えた人は、あまりに刺激的な映画やスポーツを見るのを避けたほうがよさそうだ。


 ちなみに、スポーツを“する”という意味では〈有酸素運動は心臓によいようです〉という。あれだけ激しい〈エアロビクスは、最も心臓発作を起こしにくい運動の一つ〉なのも驚いたが(心臓が弱い人がやらないだけかも)、〈最も心臓発作が起こりやすい運動は、意外にもゴルフ〉なのだとか。実際、会社社長で、ゴルフ場で倒れた知人もいる。


 もっとも、著者が言うように、ゴルフが悪いというより〈日ごろ運動不足のちょっぴりメタボの人が、寝不足で朝早くからプレーし、お昼には一杯ビールを飲んで午後もプレーするのがよくない〉のだろう。  オススメの食生活や心臓病の薬と食べものの組み合わせについては、本書を読んでほしいが、注意したいのは、サプリメントなど健康食品との組み合わせ。高齢者でサプリを愛用している人は多いが、そもそも〈サプリメントは、薬ほど副作用や飲み合わせの情報がない〉ことが多い。


 目下のところ、自身の血圧や心臓に異常はないのだが(まだウブだった若かりし頃に美人の看護師さんに血圧を測られて180mmHgを記録したことがある。本書にある「白衣高血圧」の一種だろう)、保健師さんにお灸をすえられて、しばらく休んでいた水泳を再開することにした。今年はいつまで続くことやら。 (鎌)


<書籍データ>

血圧と心臓が気になる人のための本

古川哲史著(新潮新書800円+税)