小室哲哉氏の不倫報道をきっかけに逆境に立たされた週刊文春にまた、悩ましい問題が浮上した。今度は大相撲報道である。


  同誌で『言葉尻とらえ隊』というコラムを連載するエッセイスト・能町みね子氏は、熱烈な相撲ファンとして知られるが、一連の相撲協会問題を報じる文春のスタンスに激怒して、コラムの休載を宣言した。要は“貴乃花べったり”のスタンスへの抗議である。 


《週刊文春、大相撲報道で週刊新潮と全く同じ路線をとってんじゃねーよ(略)大本営発表か》と強烈に始まるコラムによれば、その言い分はこうだ。一連の問題で貴乃花擁護の論陣を張る相撲協会元危機管理委員長の宗像紀夫氏は、パチンコ台をめぐる裏金問題で相撲協会から告訴されている元協会顧問を免罪した人物で、貴乃花の背後にはこうした“陣営”の存在が明らかだ。また、貴乃花部屋では力士の不当解雇問題が係争中であり、貴ノ岩による暴行事件も明かされている。にもかかわらず、文春はこれらの問題を黙殺する。 


 昨年来の問題は相撲協会の《露骨な内輪の争い》に過ぎないのに、文春は一方の側にだけ肩入れして、泥仕合に《簡単に巻き込まれている》と憤慨するのである。《ここ数号における私の幻滅と徒労感はひどく、週刊誌に自分が連載を持つことの意義が分からなくなりました》と能町氏は嘆息する。 


 連載執筆者に自社批判も自由に書かせるのは、ある種、文春の伝統的な“度量の大きさ”だが、他の執筆者も時折見せる“チクリ”という程度の苦言にとどまらず、ここまで真っ向から怒りを綴られると、文春もなかなかつらい。しかも、目下文春は小室氏報道の逆風にも見舞われているのだ。 


 不倫報道をしばらく封印し、そのうえに、相撲報道も見直す、となってしまったら、当面の誌面はとても埋まらなくなるのかもしれない。“身内”から激しい非難を浴びながらも、今週もトップ記事は大相撲でつくっている。『独占90分 貴乃花答える!』。そんなタイトルのインタビュー記事である。


  能町氏のコラムを読んだうえでこの記事に目を通すと、さすがに今回は、元協会顧問との関係も聞いているが、それとても《役員選挙を見据えたリーク合戦》《相撲協会周辺から流布されている(情報)》といった文脈でさらりと触れているだけだ。貴乃花部屋内部での不当解雇問題には何の言及もない。 


《しばらく休載させてください。復活するかどうかは分かりません》と、一応は態度を保留した能町氏にしてみれば、追い打ちで神経を逆なでされた思いに違いない。 


 ゴシップやスキャンダル報道であれ、硬派の社会派記事であれ、さまざまな角度から冷静に出来事を読み解くのは簡単ではない。一刀両断、勧善懲悪、善玉・悪玉の単純な二元論にしたほうがインパクトは大きいし、売り上げにもつながる。それにしても、文春に限らず、昨今のメディアはあまりにこの単純化が著しい。せめてトップランナーの文春くらいは“読者の劣化”を言い訳にせず、そろそろ“インパクト・オンリー”を見直してほしい。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。