今、政府が主唱する「働き方改革」が国会でも議論されている。新聞でもどうなるかといった記事が目立つ。この働き方改革の先駆けなのか、「プレミアム・フライデー」と「2つの仕事を持とう」というのが政府から提唱され、マスコミでも話題になった。
この話を聞いたとき、30年前、旧東欧が資本主義体制に変わった時のことを思い出した。当時、東欧諸国から日本に資金と技術の支援の声が高まり、日本政府は支援要請に応えようとポーランドとハンガリーに視察団を派遣した。視察団が帰国後、「できる限り支援したい」というコメントが発表されたが、視察団のメンバーに表向きの話ではなく、実際はどうなのか、と尋ねると、こんな実態を話してくれた。
「資金と技術を提供してほしいというポーランドでは、企業や工場を視察し、話を聞いた。実態はポーランド人は金曜日になると朝からそわそわして仕事が手につかない。午後3時になると、みんな退社して郊外に持っている別荘に行き、家族や友人と音楽を演奏したり、スポーツを楽しむ。しかも、アメリカに1000万人以上移住しているポーランド人からの仕送りがあり、国民はこのドル札を政府に取られないようにベッドの下に隠している。政府は貧しいが、個人は結構、カネ持ちで裕福。別荘も持てない日本人のほうがよほど貧しいのではないか、という気持ちになった」
日本のプレミアム・フライデーが第4金曜日だけなのはまだマシなのかもしれない。次いでハンガリーの話である。
「ハンガリーはカネカネと言いません。ノウハウを教えてくれ、と言います。しかし、当時のハンガリーは2つの仕事を持つことで有名です。社会主義下で本業の給料が少ないため、ハンガリー人はもうひとつの仕事を持っていた。たとえば、公務員は夕方になると、そそくさと退庁し、タクシー運転手に早変わりする。タクシーのほうは即座にお金をもらえるため力を入れ、本業のほうは疎かになる。なかには机に突っ伏して昼寝している人もいる。ノウハウ以前の問題だと痛感した」
社会主義から資本主義に変わった直後のポーランドやハンガリーの話だが、政府が推奨する2つ目の仕事が趣味ならいい。銀行員をしながら別の歌手名で公演活動をしていた有名な人もいた。シングルマザーに聞くと、「国に言われなくても、離婚した元亭主が養育費を払ってくれないため、2つも3つも仕事を掛け持ちしている」と涙する。
国民全員に2つの仕事を要望するのはどうなのだろう。幸い、プレミアム・フライデーも2つの仕事の推奨も尻すぼみになっている。昔のポーランドやハンガリー風にならなくて済みそうだ。(常)