今や、マンガが大人気だ。マンガ展には海外から大勢のマンガ好きが押し寄せ、日本のマンガに憧れて来日する外国人も多い。「マンガ」が世界語にもなっているほどだ。 


 かつてアメリカの経済は「アメリカの文化」と言われた自動車と住宅が牽引していた。一方、日本は自動車と家電と住宅が景気を引っ張っていた。ところが、家電はバブル崩壊後、技術を手に入れた韓国と中国に押され、衰退している。加えて、少子高齢化による人口減少とデフレで住宅産業は都心以外、振るわない。


  自動車も若い世代が「疲れるから」と言って買わなくなった。買い物程度なら燃費のよい軽自動車で十分、と言い、年間販売台数ベストテンの半分を軽自動車が占めている。国内で年間500万台売れていたのが、今や、400万台である。それでも日本経済を牽引している。以前、アメリカで日本車がシェア3割を占めそうになったとき、「アメリカの文化を奪おうとしている」と日本叩きが起こった。が、現地生産を進め、批判をかわし世界を席巻している。


  世界で最初に自動車を走らせたのはドイツのベンツ社であり、ダイムラー社だった。当時は富豪の乗りものだったが、大量生技術を確立したフォード1世が「みんながフォード車を買わないのか」と問うたとき、役員は「労働者の賃金では買えない」と答えたら、「それなら賃金を上げろ」と命令したのは有名な話だ。フォードに追随してGMもクライスラーも鉄鋼メーカーなど各産業が賃上げに追い込まれ、結果、T型フォードが売れに売れ、自動車がアメリカの文化に育った。


  日本車が世界を席巻するようになったのは「カンバン方式」とか「質がいい」「故障が少ない」と言うだけではない。基本はガソリンの噴射を効率的にしたなどのIT化技術だ。つまり、自動車文化は新しい技術を確立した国に移る。アメリカの文化だった自動車は日本の文化に移ったのである。


  が、IT技術では日本もアメリカも差はない。いつアメリカの文化に取り返されてもおかしくない。だが、今は、自動運転、電気自動車に移りつつある。さらに水素発電機付き電気自動車とも呼べる燃料自動車(HCV)も見込まれるが、こうした技術に成功した国に自動車文化が移る。 


 そもそも先進国では製造業は技術を取得した中心国に奪われる。かつて「日本は世界の工場」と呼ばれたが、今では中国が「世界の工場」である。先進国は先端技術の部品工場になる運命だと言える。代わって経済を牽引するのはソフトウェアになる。アメリカのITソフトは世界を席巻し、アメリカ経済を牽引している。 


 では、日本、アメリカで経済を牽引する産業は何なのか。自動車が日本車とヨーロッパ車に奪われたアメリカでは住宅とITソフトだ。ITソフトとはマイクロソフトであり、グーグルであり、アップルであり、ツイッターなどのSNSといったソフトである。 


 だが、日本ではITソフトではアメリカに太刀打ちできない。かつてソフトバンクが株式公開したとき、新聞、テレビで「日本のビル・ゲイツ」と称賛した。だが、孫正義氏はヤフー・ジャパンを設立したり、中国のアリババに投資したりで、ソフトを開発したことはなく、成長するベンチャー企業をいち早く見つけて投資する事業だった。 


 上場当時、孫氏を応援したシャープの故・佐々木正副社長に尋ねると、「孫君なら今に世界に通用するソフトを開発するだろう」という返事だったが、未だに兜町が喜ぶ投資の話ばかりで、新しいソフトを開発したという話を聞かない。 


 ところが、そんな中で世界を席巻しているのが日本のマンガだ。日本のマンガこそ、アメリカのITソフトに相当するソフトである。マンガ人気がいつまで続くかどうかはともかく、マンガに日本経済を牽引してもらうしかない。「マンガ、バンザイ」である。(常)