書店に行けば脳に関係するあれこれを扱った“脳本”があふれている。高齢者を対象にした脳トレもの、精神疾患に関する本(定番だったうつやアルツハイマー病に加えて、昨今はADHDやアスペルガー症候群などに関するものが、ずいぶん増えた)、AI(人工知能)と絡めた本、等々、その種類もさまざまだ。 


 先日、たまたま立ち寄った書店の脳本コーナーで手に取ったのが、『年をとるほど賢くなる「脳」の習慣』だ。


「中年」と呼ばれる歳になってだいぶ時間がたつが、最近、何かにつけ新しいことを覚えるのが遅くなったり、さっと人の名前が思い出せなかったりが増えてきた。明らかに劣化している感がある。それだけに、「年をとるほど賢くなる」と訴える本書のタイトルに「どういうこと?」と興味がわいたのだ。 


 本書の構成は、パート1、2で「大人の脳」(≒中年以降の脳)の凄さを紹介。パート3では、健康な脳を作るための習慣を、運動、食べ物、トレーニングなどに分けて解説する。


  確かに〈中年の脳は老化現象から守られていません〉〈顔と名前の結びつきは、年を取るにつれて弱くなります〉〈脳の処理速度も多少遅くなります〉〈中年脳が集中力を失い、考えがあてどなくさまよう〉という部分はあるようだ。 


 一方で、〈脳は中年期にその能力の頂点に達し、長い間その頂点を維持する〉〈40~65歳が物事を一番賢く考えられる〉という。 


 どういうことか? 例えば、ペンシルバニア州立大学のシェリー・ウィリスらが行った試験によれば、調査した〈6種類の認知能力のうち、語彙、言語記憶、空間認識、それに(おそらく一番励みになることには)機能的推論の4種類で、参加者の成績は平均して40歳~64歳〉の間が最もよかった〉という。 


 また、〈中年期に入るころになると、人はよりバラ色の世界観を選ぶようになる、つまり、より楽観的になると科学者は見ています〉という。特に、中年女性は〈自身がより持てるようになり、自己主張がより強くなり、また責任をより感じるようになる〉という。


 ■個人差が広がる中年期  注意したいと感じたのが、〈脳がわずかな衰えを示しはじめるだけでなく、個人差の広がりが大きくなりはじめるのが中年期であるという事実〉だ。しかも、〈年をとるにつれて並行作業が徐々に苦手になっていく場合が多い〉という。 


〈行動が違いを生む〉〈エクササイズだけが新しいニューロンを生成する〉だけに、パート3で紹介されているさまざまな生活習慣は実践したいところ。 


 ちなみに、認知症の脳への攻撃を和らげる技術のひとつに〈脳の集中のために開発されたテレビゲーム〉があるのだが、〈プレーヤーに同時にいくつものことを行なわせ(マルチタスク)、ゲームの状況内で焦点を移すことを強いる〉ことで、全般的な脳の動きや、思考の整理を改善する効果があるという。 「年をとったらテレビゲーム」は案外、脳にやさしいのかもしれない(私の場合、夜を徹してゲームを続けてしまうため、別な意味で体に悪そう)。 


「記憶力が落ちてきた」などと“脳力”に自信を失っていた中年諸氏、少しばかり中年を礼賛しすぎの感がないでもないが、本書を読んだら自信が復活すること必至だ。これから老後に備えるという人も、必読の内容満載である。 「中年期は、お金に関する判断に最も熟達する」という点だけは、まったく同意できなかったが……。(鎌)


 <書籍データ>年をとるほど賢くなる「脳」の習慣』 池谷裕二著(日本実業出版社1,650円+税)