ほとんど“毒扱い”のタバコにくらべて、日本(およびアジアの国々)は、酒にとても寛容だ。 


   以前よりだいぶ厳しくなったとはいえ、酒の上での失敗は「酔っていたから仕方がない」で済んでしまうこともまだ多い。


  もっとも、飲みすぎは体に悪いのは確か。体を壊したり、酒が飲めなくなったりといった事態は避けたいもの(もちろん、酔ってホームから線路に落ちたり、他人とトラブルになったりも避けたい。普段のストレスがよっぽど大きいのか、飲みすぎるのか、同業者の失態がときどきニュースになっている)。 


 私も、ついつい飲みすぎてしまう“左党”のひとりだが、「長く酒と付き合っていきたい」と手に取ったのが、『酒好き医師が教える最高の飲み方』。酒ジャーナリストの著者が、医師をはじめとするさまざまな分野の専門家に取材し、適切な酒の飲み方を探る。 


 多岐にわたる分野の専門家に聞いているため、それぞれの主張には多少ばらつきがある。 


 例えば、油を使ったおつまみ。「食べると悪酔いしない」とする識者がいる一方で、「つまみのカロリーを押さえるなら油を使わない調理法が望ましい」とする識者もいる。飲んでも大丈夫な、適切な酒の量も識者によって微妙に違う。 


 ただ、いずれにしても「飲酒はさまざまな病気になるリスクをはらんでいる」という点では、多くの識者の見解は一致している。 


 脳は、〈酒を飲めば飲むほど萎縮が早く進む〉。〈同じ年代で酒を『飲む人』と『飲まない人』の脳をMRI(核磁気共鳴画像法)の画像で比べると、前者の脳は後者に比べ10~20%ほど萎縮していることが多い〉という。 〈脂肪肝の原因は主にカロリー過多の食事や慢性的な運動不足のほか、アルコールそのものが原因になる〉〈アルコール摂取の多い人ほど、歯周病の罹患率が高い〉〈飲酒が「大腸がん」のリスクを上げるのは確実〉。女性だと、〈飲む量が多くなるほど乳がんの発症リスクは確実に高くなる〉。 


 タバコと同様に、ありとあらゆる病気が酒と密接に関係しているのだ。本書を読んでいると、酒を飲んじゃいけない気持ちになってきた。 


■適量の酒は健康にいい?


 一方、「酒は百薬の長」との言葉があるように、古くから、「ほどほどの飲酒は健康にいい」とされてきた。


  最近では赤ワインのポリフェノールの効用や、〈「Jカーブ」現象により、少量の飲酒によって心血管系の疾患のリスクが減少すること〉などが広く知られている。


  しかし、監修者によれば、飲酒のリスクについては〈科学的には「エビデンスレベルが高い」ということができる。/一方、飲酒が健康に良い、という点に関しては、(中略)エビデンスレベルが「やや弱い」ことは否めない〉という。そこはまったく同感で、酒の効用については、「リスクの大きさを考えると、少々苦しいなぁ」との印象を受けた。 


 以前、「禁煙と禁酒なら、禁酒の方が簡単」と豪語していたのだが、禁煙には成功。次は禁酒と言いたいところだが、職業柄、酒席は多い。加えて「酒を飲まないつまらない人間にはなりたくない」という“言い訳”が頭をよぎる(タバコを吸っていたときも似たような言い訳をしていた)。 


 とりあえずは、本書が提唱する〈飲酒量の見える化〉で、適正な飲酒量の〈ビール中ビン1本、日本酒なら1号程度〉に抑える訓練から始めてみようと思う。(鎌)


  <書籍データ> 『酒好き医師が教える最高の飲み方』 浅部伸一監修 葉石かおり著(日経BP社1400円+税)