NHKニュースが変わった、という指摘がネット上に流れている。きっかけは15日夜7時と9時のニュース。自殺した近畿財務局職員が書いた遺書の内容を独自に報じたり、前川喜平・前文科次官が名古屋市立中学に招かれ、自らの不登校体験などを語った講演のあと、文科省が嫌がらせめいた質問を市教委に送りつけていた事実を暴いたりと、久しぶりにその取材力を見せている。
産経新聞も含め主要メディアの大半が森友関連の決裁文書問題を「改ざん」と呼ぶようになったなか、NHKは未だ「書き換え問題」と呼び続ける少数派であり続けている。それでもここ3年ほど、露骨なほど政権におもねる報道に徹してきた流れから見ると、確かにそのインパクトは大きい。
今回の森友問題ばかりでなく、加計学園問題でも今治市役所の文書が内閣府の指示を受け書き換えられた疑惑が報じられている。陸上自衛隊の日報問題や厚労省の裁量労働制調査の問題など、過去1年に噴出した問題の多くに「忖度」というキーワードが見え隠れする。“上からの直接的指示”の有無は不明でも、間違いなくその“圧”は官僚機構の隅々まで行き渡っている。
軌を一にしてメディアの委縮が目立つようになったのも、結局は同根の問題に思える。安倍首相はかつてNHKの番組改変問題で、呼びつけたNHK幹部に「(自分の意向を)勘ぐれ」と言い放ったとされる。たとえ自らの口で無理難題を強要していなくても、これだけ多方面に似たような事態が広がった根幹には、“忖度される側”の問題があると見なければならない。
森友文書問題の発覚で、この“忖度支配の網”がほころび始めたなら、ようやく、という感は否めないが、歓迎すべきことだ。NHKの報道部門の人々もここはひと踏ん張り、頑張ってほしい。
その意味で今週の各誌を眺めると、発売日のハンディがあるものの、週刊現代の『お互いに決定的証拠を出せないまま、泥沼の闘いへ 朝日新聞と安倍政権どちらかが死ぬ』という特集は、未だに政権の顔色をうかがう“腰の引けた両論併記”に見えてしまう。
自ら1次情報を得る努力をする文春や新潮はそうではない。文春は『「森友ゲート」これが真相だ! 安倍首相夫妻の犯罪』、新潮は『3選も改憲も吹き飛んだ 「森友改ざんの爆心」』とバッサリと斬り込んでいる。
前者は9ページ、後者は10ページの大特集なので、それぞれの冒頭に配された「リード」だけ紹介しておこう。
《公僕たらんと志し、国家公務員となった人々が不正に手を染める。あるいは死を選ぶ。彼らはなぜ、そのような行動をとらざるをえなかったのか。部下が権力者の犠牲となり切りすてられていく。日本はいつからそんな国になったのか。安倍晋三夫妻の罪に迫る》(文春)
《今週の自民党総裁選3選と来るべき改憲に向け、地ならしを続けてきた矢先の爆発である。1年以上に亘って燠のように燻ってきた「森友問題」。その改ざんの爆心は安倍首相とあまりに近いところにあるせいで、いまや政権ごと吹き飛ばしかねないのである》(新潮)
明らかになった事実を直視して、忖度なしにその印象を綴るなら、このように考える国民が大半を占めるはずだ。
……………………………………………………………… 三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。