時給800円台のアルバイトと時給8万円のマッキンゼーのシニアコンサルタント。この100倍の差はどうして発生するのか?


 それは、“希少価値”があるか否かである――。以前参加した講演会で、教育改革実践家の藤原和博氏がこのように述べていた。藤原氏は高い時給が欲しければ“レアカード”になれと若い人たちにエールを送っている。


  先日、都内のあるクリニックのホームページのメニューに「面会規定」というコーナーが設置された。内容はMRとの面談をアポイント制にして、面会希望日の2週間前までに希望日を3つ以上挙げてメールを送付するように書かれていたが最後の注意事項が強烈だった。 


「上記の面会規定を無視して訪問される場合、1分間1000円のチャージが掛かります。当日現金にてお持ちください」 


 別ページには、今回の規定設定のきっかけとなった某外資系製薬企業の担当者のふるまいが「時間泥棒」と名指しで書かれている。1分間1000円と聞くと高いという印象を抱くかもしれないが、「初診料」は282点(2820円)だ。これに時間外or休日or深夜、または2018年度に新設された「機能強化加算」(80点)が加算されれば“分給”1000円を超えるかもしれない。医師はマッキンゼーのシニアコンサルタント並みの“レアカード”である。 


 このクリニックの医師が特殊な考えの持ち主だと考えないほうがいいだろう。 


 MR活動に理解があり、以前は「MRさんも大変だよね」とやさしい言葉をかけていただいた私のかかりつけ医ですら、最近は「今のレベルでは存在価値がない」と厳しいことを言うようになってしまった。各社のMRに他社のSGLT2阻害薬との違いを聞いても教えてくれないから、MRが帰ったあとに、自らネットで腎機能が低下している患者にも最も使いやすい薬剤はどれかなどを調べているという。


  在宅医療への取組や多職種連携の推進、さらには遠隔診療による生活習慣病のフォローなどにより、開業医の“ゴールデンタイム”は消滅し、終日会いにくい“ノンプライム”タイムになる。これに面談規定が強化されれば、ますますMRは仕事がしにくくなりそうだ。 


 私が好きな言葉に「洗濯物は洗うからきれいになるのではなく、洗濯機に入るからきれいになる」というものがある。 


 新人MRが縁もゆかりもない地方に配属されても、医師や薬剤師にかわいがられ、地域に育まれて一人前になっていくのは、その地域に“洗濯機能”があるからだ。しかし、今の医師たちが置かれている余裕がない現状に“洗濯機能”を期待するのは無理がある。 “レアカード”の医師に時間をいただくには、こちらも“レアカード”になる必要がある。1分1000円の価値を提供できるか。これがアポイントをもらえるベースと考えよう。   


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。