通常の組織でもし、同じように致命的な不祥事が発覚した場合、組織自らが事実関係を徹底解明しない限り、社会の納得は到底得られない。しかし、森友問題の政府対応を見ていると、政府自らは新事実を何ひとつ提示せず、詳細は曖昧にさせたまま、幕引きを図ろうとする姿勢にしか映らない。


  国民はもう、薄々全体の構図はつかんでいる。なのに公式には、未だ佐川宣寿・前理財局長以下、「一部職員」が国会答弁の辻褄合わせのため、決裁文書の改竄という前対未聞の不祥事を犯した、という話のままである。財務省自身は、森友への土地取引そのものは適正に行われた、と未だに言い募っている。これほど馬鹿げた話があるだろうか。


  その意味で、今週の週刊文春には、政府は絶対に認めないだろうが、多くの人々が腑に落ちる全体構造が示唆されている。特集タイトルは『安倍首相夫妻の罪と罰』。記事内容は昭恵夫人の奔放なふるまいから、前川喜平・前文部次官の公立中授業に対する嫌がらせ質問状の問題に至るまで、幅広く関連する話題を取り上げたものだが、その中にまさにキーマン的な人物の名が登場する。


 今井尚哉・首相秘書官。経産省から出向した首相の最側近である。記事では財務省幹部の談話を引く形で「佐川氏は予算策定を通じ関わった他省庁は通産省のみという変わったキャリアです。そのため経産官僚以上に経産省の人事に詳しく(略)閨閥にも精通していました」と言及し、同じ82年入省組の佐川氏と今井氏は「省庁を越えて親しい」と明かしている。今井氏については「当初から森友問題の危機管理を一手に担っていた」という記者談話も取り上げている。佐川氏がもし、独断で国会答弁や公文書改竄をしていたのでなければ、今井氏と対応を相談していた可能性は相当に高いと言えるだろう。


 今井氏の存在に関しては、週刊朝日で前川前文部次官がよりはっきりと語っている。それによれば、籠池前理事長から財務省への問い合わせをファクスで取り次いだ昭恵夫人付き秘書官・谷査恵子氏は経産省出身。しかも彼女はノンキャリアである。そんな立場の谷氏が財務省の国有財産審理室長と直接やり取りできるはずはなく、直属の上司である今井氏に相談した可能性が大きい、と前川氏は指摘する。 


 現段階ではっきりしているのは、佐川氏のもと、財務省理財局で決裁文書の書き換えが行われたこと、そして昭恵夫人付き秘書官だった谷氏を通じて森友からの問い合わせが財務省につながれたこと。この2つの出来事の背後に共通して存在した可能性が強いのが、今井氏なのである。


  佐川氏が何ら官邸とのすり合わせなしに独断で物事を進めたとは考えられないし、谷氏もまた谷氏で、そもそも独力では財務省担当室長に問い合わせをしたり回答をもらったりすることが不可能なのである。キーマンは、やはり今井氏しかいない。 


 政治的インパクトは大きいにせよ、昭恵夫人を喚問したところで、得られるのは間接情報に終わるだろう。野党は本丸を今井氏と見定めて、まずは谷氏の証人喚問をめざすべきではないか。来週の動きを見守りたい。 


……………………………………………………………… 三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。