診療報酬改定ごとに新版化している『<イラスト図解>医療費のしくみ』では、毎回、DPCにおける肺がんのツリー図(樹形図)を掲載している。DPC関連の告示は3月20日と遅く、今回も下版日との“戦い”になった。 


 チャート図が掲載されているファイルを開き、「肺の悪性腫瘍」の傷病名の細分類「040040」で検索をかけた。出てきたチャート図の大きさに絶望した。この大きさでは本に掲載できないと思ったからだ。



 チャート図巨大化の理由は、免疫チェックポイント阻害薬の「ニボルマブ」(オプジーボ)と「ペムブロリズマブ」(キイトルーダ)の登場だ。この2剤は「手術・処置等2」の9番目に位置されており、「出来高」算定の診断群分類となっている。高額薬剤の存在は、DPC制度に大きな影響を及ぼしている。 


 2017年の領域別WEB講演会開催割合をみると、「がん・血液疾患」は14.9%を占めており第2位だ。話題のがん領域に10ポイント以上の差をつけている第1位は「糖尿病」である。これは、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬、さらにはインスリン製剤が、それぞれ競合ひしめく“レッドオーシャン化”していることやGLP-1受容体作動薬が順調に市場を拡大させていることが背景にある。今年も「糖尿病」が1位になりそうだ。 


 しかし、プロモーションの世界では注目を集めている「糖尿病」が“病院”の中では立場が弱くなっているという話を耳にするようになった。


 私は糖尿病の専門医を対象とした“リアル講演会”で近年数多く講演している。講演後の情報交換会では、専門医からがん等の領域に病床を奪われ、なかなか評価されにくくなったという愚痴を聞くことが増えた。 


 まるで、がん領域におけるDPCのチャート図の拡大と比例するかのように、病院の経営サイドは単価が高いがん領域の病床を増やし、逆に糖尿病関連は地域包括ケア病棟や外来を中心とした診療にシフトされていく傾向にあるそうだ。 「糖尿病の専門医が病院で評価されるにはどうすればよいでしょうか?」――。先週、同じ質問を別々の講演会で受けた。美人にも悩みはあると言われるが、講演会で人気の糖尿病専門医にも悩みはあるようだ。MRには、こうした悩みにも寄り添っていただきたい。


  私は、「DPCのデータを扱っている職員に、他科にコンサルトしたことで、どれくらい病院経営に貢献しているかデータを出してもらってください」とアドバイスした。 


…………………………………………………………………

川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。