ここ数年、製薬会社の大掛かりな疾患啓発活動などもあって、「発達障害」という言葉が広く知られるようになった。  

  あらためて発達障害の定義を記すと、発達障害者支援法には〈自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害〉(第2条)とある。独特な考え方や物のとらえ方で、他人とのコミュニケーションに困ったり、頻繁に予定や持ち物を忘れたり――。発達障害の人は、職場では、“困った人”扱いされることも多い。


  発達障害は、幼少期に発現することが多いだけに、親の関心度も高いのだろう。昨今は一般書も含めて、さまざまな関連本が刊行されている。社会生活を営むのが難しいほどきつい症状の患者がいる一方で、発達障害の人の中には、異常なほどの集中力や、常人とは異なる感性で、凄い作品や成果を生み出すことがある。


『発達障害は最強の武器である』は、〈自己診断によるADHDの傾向が強い人間〉という著者による一冊。著者は、日本マイクロソフトの社長を務めたこともある、IT業界ではよく知られた人物だ。


〈「ADHDはもし矯正しなくても済むものなら、矯正しない方が幸せに生きられる」〉という著者は、発達障害の人の特異な才能に着目。自身や家族、IT業界の優れた人々のエピソードを紹介していく。マイクロソフト草創期の空気やアスペルガー症候群が疑われるビル・ゲイツのエピソードは読み物としても面白い。 


■精神医療バブルの実態  発達障害をめぐる医療の現状を知るうえでは、香山リカ氏と著者の対談が参考になる。


〈小児の精神科には、今半年待ちとか1年待ちとか、受診希望の保護者と子どもが押し寄せている〉〈患者さんとの面談には2時間も3時間もかかります。でも、私たち精神科の勤務体系は時間制ではないんです。私の勤めている病院も、初診でせいぜい20~30分しか枠がとれない。2時間3時間の面談を受けたいなら、大学病院か、あとは自由診療で1日10万円くらいで診断しますというクリニックに行くしかない。そういう病院も、予約でいっぱいの状態です〉。


  それだけ発達障害に悩む人は多いのだろうが、〈今は精神医療がバブルみたいな状態〉でもある。


〈大手でやっているところは、行くたびに医師が変わるというところもあります。精神医療は患者がどんな家族背景で経済状態でということも治療に関係してくるので、私はシフト制で毎回先生が変わるところはどうかなと思います〉というから注意したい。


「職場で生ききくい」と感じている発達障害の人が多いということは、それだけ職業や職場とのミスマッチが頻繁に起こっているからだろう。著者は〈クリエイティブな能力が必要な会社は、アスペルガーやADHDの人をたくさん入れたほうがいい〉と主張する。


  もっとも、発達障害の人がいきいきと働けていた職場でも、組織が大きくなったり(大手IT企業や、テレビ局が典型だろう)、昇進して管理する立場になったりすることで、結果的にミスマッチになるケースもある。


  正直、発達障害の人と接していると「イラっとさせられる」ことも多いが、既存の枠では収まらない人物は官僚化した日本の大企業の救世主となり得る。著者が断言するように、さまざまな職業がAI(人工知能)に代替される時代には、発達障害の特徴である〈「多動性」「不注意」「衝動性」「過集中」の力が活きる〉はずだ。 職場に一人や二人はいないだろうか? いろいろ細かなミスも多いけれど、特定分野の専門知識やものすごい人脈で、たまにもの凄い“ホームラン”を打つ人が。 


 いかにして “異能の人”のパフォーマンスを最大限に発揮させるのか? 組織や人事担当者にとってこれからの課題になりそうである。(鎌)   


<書籍データ>発達障害は最強の武器である』 成毛眞著(SB新書800円+税)