佐川宣寿・前国税庁長官の国会証人喚問のあと、森友問題の追及は一旦、小休止状態になったように見える。入れ替わりのタイミングで陸上自衛隊の日報隠し問題が再燃し、改めて現在の政府が“政治的に都合の悪いこと”について平気でウソをつき、記録を隠す体質になっていることが示されたが、人々はどう見るのだろう。
安倍政権の“コアな支持層”は「野党よりも自民党の他の政治家たちよりも安倍首相のほうがマシ」という強固な“信仰心”を抱いていて、これほどの不祥事連発でも“悪いのは野党とメディア”の一点張りである。主要メディアの世論調査で政権支持率がさらに下がるのか、それとも回復傾向が見られるのか、その動向によって、今後の政局、検察の決断は大きく左右されるのだろう。
そのようなわけで、今週は重要な政治ネタ調査報道があまりない。唯一、週刊文春が『“今井ペーパー入手” 今井秘書官が放送法改正を主導 安倍首相が欲しがる御用テレビ 安倍政権「テレビ制圧計画」』なる記事を載せている。
安倍政権やその“応援団”の著名人はこれまで、テレビ報道の「政治的中立」をうたった放送法4条を錦の御旗にし、政権批判報道を攻撃してきたが、ここにきて突如、4条の撤廃を言い始めた。政権批判をやめさせられないのなら、逆に“政権擁護番組”をつくりやすくして世論を誘導する作戦である。
実際、文春が入手した官邸の内部文書には「放送にのみ課されている規制(放送法4条)の撤廃」などと赤字で記された文章に、「H31通常国会もしくはH30臨時国会法案提出」とタイムスケジュールまで記されていて、このプランの中心人物こそ、安倍首相の側近中の側近・今井尚哉秘書官なのだという。
相変わらず発展途上国まがいの話だが、最近はここまでえげつない話でも国民の感覚がマヒしかけてしまっている。未解決のまま延々と疑惑が燻っている状態は、そんな深刻な副作用を人々の感性に与え始めている。
新潮は、ビートたけしが先に離脱した「オフィス北野」をめぐる記事をメインとした。『「ビートたけし」独立問題の裏の裏 「裏切者」にされた「森社長」の悲痛な反論5時間』というもので、たけし軍団から名指しで指弾された森昌行社長による「なぜ自分ひとりを悪者にするのか」という訴えを大きく取り上げている。
新潮は前号で、たけし独立の陰に愛人の存在がある、と報じた経緯があり、たけし軍団による「森社長悪玉論」は打ち消さねばならない。実際、この記事で森社長は、たけし本人はもともと経営に無頓着だったが、近年、急に口を出すようになった、と強調し、その変化の背後にいる愛人の存在をほのめかしている。
国内トップクラスの大物芸能人なればこそのニュースバリューだが、トラブルの中身は、利益の分配をめぐる単純な揉め事だ。新潮は“成り行き”で森社長側に立つことになったが、結局は関係者同士の金銭の争いである。世間一般には泥仕合の印象しか与えない。
このほか今週はサンデー毎日に、北海道新聞記者時代に北海道警の裏金問題を暴き、社の上層部が圧力に屈したことで社を追われた高田昌幸・東京都市大学教授による『嘘をつく人 真実を隠す人vs.報道』という記事が目を引いた。最近封切られた米映画『ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書』を題材に国内報道の現状を描いている。同業者のひとりとして興味深かった。
……………………………………………………………… 三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。