診療所が“価格戦略”にこれほど悩む改定は初めてかもしれない。『女性自身』は改定前の3月26日に、「初診料が800円値上げも……4月に変わる医療・保険費のルール」と題する記事をアップした。 


“800円”は2018年度診療報酬改定で新設された「機能強化加算」(80点)のことであり、患者が支払う実際の負担額は3割負担なら240円だ。5238軒(2016年7月時点)の診療所が届け出ている「地域包括診療加算」などを届け出ていれば、「機能強化加算」を算定することができる。初・再診料を1点上げるのに何億円もの財源が必要だと議論されていた時とは隔世の感がある大盤振る舞いだ。 


 もうひとつ、ネガティブな声が聞こえているのが「妊婦加算」だ。同加算は妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療を評価する観点から、妊婦に対して診療を行った場合に初診料に「妊婦加算」(時間外/休日/深夜)として75点(200点/365点/695点)、再診料・外来診療料には「妊婦加算」(時間外/休日/深夜)として38点(135点/260点/590点)を加算できるというものだ。医療機関からみたら、管理が大変な妊婦の診療に加算ができるのは「当たり前」だと思われているだろう。しかし、患者側からみると、「なぜ、妊婦の負担を増やすのか?」となる。


  大変な人に対する新設項目と言えば、「妊婦加算」、「性別適合手術の保険適用」と並ぶ2018年度改定の“ビックリ項目”のひとつである「療養・就労両立支援指導料」(1000点)も同様だ。 


 がん患者の治療と仕事の両立の推進等の観点から新設された項目だが、3割負担では3000円の負担になる。


  診療報酬は、医療サービスの内容と範囲を決定し、そのサービスに対する価格表としての役割を持っている。その役割が医療費を適正配分するほか、国が促進したい医療機能やサービスの提供を促進することになる。 「機能強化加算」はかかりつけ医機能を、「妊婦加算」は周産期医療を充実させるための評価である。


  医療機関の「価格戦略」は、“どの点数を算定するか?”ということがベースになる。しかし、定率負担が患者に強いられている以上、患者の懐事情を無視することはできない。平均所得が1115万円の港区と、260万円の檜原村では、同じ東京都でも戦略を変える必要がある。“改定後”になった今の時期、多くの開業医が新設項目の算定に悩んでいると思う。彼らの悩みに、耳を傾けよう。 


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。