「予約したのに1時間も待たされた」「診療時間はわずか数分、もっと聞きたいことがあったのに」「入院中は食事がまずくて参った」……。


 近年、医療者に説明が求められるようになったことから、患者が受ける医療の内容を、詳しく解説してくれるようになった。それでも、さまざまな疑問は尽きない。


 面と向かっては聞きにくいような疑問から、患者の誤解、医療の不条理など、さまざまな医療をめぐる論点について、医者や医療機関の生態や論理を踏まえて、解説してくれるのが『知ってはいけない医者の正体』である。著者は眼科医の平松類氏。テレビや新聞、雑誌などさまざまなメディアに登場し、一般の人にもわかりやすい説明に定評がある。


 タイトルに反するが、本書に書かれた内容は、むしろ“知っておくべき”ものだ。患者が知っておくと医師に対して寛容になれたり、得したりするものも多い。


 例えば医者とのコミュニケーション。おおむね親切な医者が多いと感じるが、時には「何だかこのお医者さん話しにくいな」「説明がわからない」といった経験をしたことはないだろうか?


 そもそも医師になる人は、<小中学生から勉強をたくさんしてきて、偏差値は60を軽く超える人たちです。(中略)勉強をあまりしない人の知識や考えを理解できていません。/ですから、患者さんがどの程度理解できるのか? ということも全く認識できません>というエリート層だ。


 医師免許は今や唯一と言ってもよい“食いっぱぐれのない資格”で、人気は過熱する一方だ。どの医学部も偏差値が上がり、医師=勉強がとてもよくできる努力家、の傾向はより強くなっている。患者の生活環境や知的レベルが理解できない人も増えているのだろう。


 一方、本書に記される勤務医の労働実態は非常に厳しい。大学病院で言うと、朝は6~7時に出勤して、病棟の患者を診察し、9時からは外来で、昼食を挟んで18時ごろまで続く。緊急の手術が入ったり、事務作業などで24時近くまで働いていることも珍しくない。勤務医の過労死予備軍は、実に14.5%にも上るという(一般職員は1.2%)。そして、医者には〈ブラック・ジャックで赤ひげ〉(医師として腕はたつが、安くて患者思い!)であることが求められる。正直、完璧なコミュニケーションまで要求するのは、申し訳ない気にもなる。


■必ずしも同じではない「ジェネリック」


 数多くの論点のうち、すっかり勘違いしていたのが、病院における「予約」の意味である。〈病院の予約時間は「歯科医院や美容室などの予約とは違う」ということ。あくまで「来院時間を分散させて、一人一人の待ち時間を減らす」目的〉だ。


 そもそも病院は患者を断らない。〈「予約がいっぱいだから断ります」とすると、「緊急の病気を拒否して命をなくした」〉ということも起こり得る。予約の間に緊急度の高い患者などが入り込み、予約をしていたにもかかわらず、少しずつ(場合によってはかなり)診察の時間が遅れてしまうのだ。大幅な遅れの理由を知ることで、少しは寛容になれるかもしれない。


 ジェネリック医薬品の考え方は、一般の患者にも非常にわかりやすく、かつ正鵠を射たものだった。


 本格的にジェネリックの普及活動が始まったころから、「ジェネリックは新薬(元の薬)と同じもの」が強調されてきたが、違和感を訴える医師も多かった。〈そもそも「全く同じ薬」ではありません。同じなのは主成分だけ〉だからだ。添加剤や製法が違い、効き方が違うことがあるのだ。


 著者はジェネリックを全否定しているわけではない。〈ジェネリックでも元の薬より効くものもあれば、効かないものもあります〉〈いい薬もたくさんあります〉という。著者が訴えるのは、“同じもの”としていることへの違和感である。


 なお、新薬をつくる会社から許諾を受けて、別の会社が製造販売する「オーソライズドジェネリック」については、主成分だけでなく、他の成分や特性もほぼ同一のものとして本書でも紹介している。


 私事になるが、ここ1年ほど、毎週のように通院している。ここ最近、暑さのあまり小汚いTシャツ、短パンで通っていたが、これは得策ではなかったようだ。本書に紹介された調査によると〈身なりのきちんとしていない患者さんには、医者は質問の機会を与えないということが判明した〉のだという。


 だから、担当医はあまりしゃべろうとしなかったのか? 次回からある程度きちんとした服装で病院通いをしてみようと思う。(鎌)


<書籍データ>

知ってはいけない医者の正体

平松類著(SBクリエイティブ850円+税)