4月18~20日に東京ビッグサイトで開催された「ヘルスケアIT2018」を取材した。ほかの参加者に聞いた印象も含めると、セミナーは内容が薄いものが多かったようだが、市場が拡大しつつあると感じたソリューションがある。AIによるMR活動の分析だ。


  ハイパフォーマーMRのディテーリング内容をロジック構成や情報種類の割合などをAIによって分析し、他のMRとのギャップを導き出すというソリューションだ。“普通のMR”はハイパフォーマーMRとのギャップを指摘されることにより、自らのディテーリングを改善することができるという。


  このギャップ分析を定期的に実施していくことにより、普通のMRが少しずつハイパフォーマーMRに近づいていくことが期待できるという。マネジャー側もエビデンスに基づいた指導ができるというメリットをある出展企業はアピールしていたが、本音は「所長がいなくても問題ない」ソリューションだと言い切りたいのだと感じた。


  分析するのはディテーリングだけではない。日報もハイパフォーマーMRとの分析が行われ、普通のMRは常に改善を求められる。 


 ディテーリングや日報分析のほかにも、MR活動を支援するAIには、▼チャットボット(例:木村情報技術)▼訪問先とディテーリング内容を推奨(例:AKTANA)▼訪問時のディテーリング支援(例:インタラクティブソリューションズ)――の3つがあるが、いずれも“ハイパフォーマーMR養成ギブス”のようなソリューションだ。


  前出のディテーリング分析のセミナーに参加している時、友人で『人間系ナレッジ・マネジメント』(医薬経済社刊)の著者である山本藤光さんの顔が脳裏をよぎった。 


 山本さんは日本ロシュ(現中外製薬)時代に「SSTプロジェクト」の事務局長を務め、その成果を『人間系ナレッジ・マネジメント』を含む多くの著作で紹介した人物である。


  SSTとは、Super Skill Transferの略で、「名人芸移植」を意味する。すなわち、「SSTプロジェクト」とは、ハイパフォーマーMRのスキルを“普通のMR”に移植するプロジェクトのことであり、その後、多くの企業が同プロジェクトを導入・模倣した。


  当時の日本ロシュは、全国700名の中からトップMR24名を厳選し、3人1組で3ヵ月間1チームに常駐し、「暗黙知」を連続同行指導により直接移植した。その結果、2桁アップの営業生産性の向上を実現させたことが山本さんの著作に描かれている。 


 AI化されつつあるSSTプロジェクトについて、山本さんはどのように思っているだろうか。今度お会いしたら直接聞いてみたいと思う。 


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。