ゴールデンウィーク入りを前にして、今週の週刊誌はいずれも2週間分の合併号である。話題性から言えば、発売日前から噂が流れていた週刊文春の『安倍政権メルトダウン全内幕 林文科相が白昼通う“セクシー個室ヨガ”』が断トツの注目度であったが、蓋を開けてみると、この文春砲から放たれたのは、失礼ながら破壊力のほとんどない“不発弾”だった。
事前に広がった噂によれば、文科大臣がお忍びで通うのは、元AV女優が経営する一見ヨガスタジオ風の風俗店、とのことだったが、各局ワイドショーなどの取材を受けた女性経営者は、元AV女優という経歴も、性的なサービスがあることもきっぱりと否定した。文春記者が潜入して書いた文章もよく読めば、《常連になれば、(インストラクター)の女の子とご飯に行ったり、恋愛関係になることもある》という業界関係者の“解説”があるだけで、店のサービスそのものに、いかがわしさがあるわけではなさそうであった。
となると、大臣に問われるのは、「平日の昼間」に「公用車で私用の外出をした」というだけの話になってしまう。もしこれがごく普通のマッサージ店だったり散髪屋だったりすれば、とても記事にはならなかっただろう。ドギツイ見出しに引きずられてしまうと羊頭狗肉、肩透かしを食らってしまう記事だった。
今週の文春で目についたのは一般記事よりもむしろ、作家・真山仁氏の新連載『ロッキード 角栄はなぜ葬られたのか』だった。「巨弾ノンフィクション」と銘打たれた作品のテーマ・ロッキード事件は、新聞記者出身の真山氏がいつの日か書きたい、と温めてきたものだという。
初回は、雪深い田中角栄の出身地、新潟県西山町を筆者が訪れる描写があるだけで、これからどのような物語になってゆくものか、展開はまだ見通せない。それでも、サブタイトルのフレーズを見る限り、米国政府と角栄との闘いがクライマックスになってゆくのだろう。よくある安手の偉人伝のような“角栄賛歌”に終わらない、スケールの大きな現代史ノンフィクションになるのでは、と期待が盛り上がる。
自分自身、小さな媒体で取材モノの連載をさせてもらっては、書籍化する職業の人間だが、大手の週刊誌で本格ノンフィクションの連載を見るのは、本当に久しぶりな気がする。そもそも最近は大型書店に行ってもノンフィクションの棚はあったりなかったり。あっても、その棚に並ぶのはヤクザ関係の実録モノやちょっとした話題の人の自伝的読み物だったりと、極めて限定的な本だけになってしまっている。
文春の同じ号では、医療小説を専門とする作家・海堂尊氏による『フィデル! ポーラスター外伝』という連載がすでに12回を数えている。こちらは厳密なノンフィクションではなく、若き日のフィデル・カストロを小説のスタイルで描いた作品だ。私自身はたまに、斜め読みで“チラ見”するだけだが、何せこの平成の時代に、フィデル・カストロである。
常々そのタイトルが気にかかり、書籍化した暁にはぜひ読みたいと思っている。
真山氏は1962年、海堂氏も61年の生まれ。奇しくも私も同年代である。私たちがまだ学生だった70~80年代は、ノンフィクションであれ小説であれ、現代史や世界情勢と切り結ぶスケールの大きな読み物がいくらでもあった。2つの連載の構えには、どこかそんな時代の匂いがして、ワクワクした気持ちをかき立ててくれる。
……………………………………………………………… 三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。