先週、「私は将来、医薬情報担当者になりたいのですが……」という相談がYahoo!知恵袋に掲載された。この悩みに対して、「私は内科医です。MRは将来的に必要なくなる仕事です。やめたほうがいいですよ」など、ネガティブな反応が寄せられた。
ネガティブなコメントを寄せた投稿者は、『週刊ダイヤモンド』5月19日号の特集を読んだのかもしれない。医療職の中でコスパ(なりやすさと報酬)は1位だったものの、将来需要が減少する職種でもMRは1位となった。このようなデータを信じれば、オススメするのに気が引ける気持ちもわかる。
しかし、これから減少するMRは、“従来型”のMRだ。井上智洋氏は著書『AI時代の新・ベーシックインカム論』の中で、汎用人工知能(人のような知能を実現した人工知能)が出現した後でも残る仕事として、▼クリエイティヴィティ系(創造性)▼マネジメント系(経営・管理)▼ホスピタリティ系(もてなし)――の3つの仕事(能力)を挙げている。逆に言えば、この3つがないビジネスパーソンは汎用AIに仕事を奪われるだろう。
では、勝ち(価値)残るMRとは、どんなMRなのか。私は“距離破壊”できるMRだと予想している。前回も触れたように、企業は地域の課題を解決するために、連携協定の輪を広げている。エーザイは4月1日現在で132団体と連携協定を締結しているという。一方、連携協定のようなアナログではなく、「デジタルヘルス」により、地域や患者への貢献を模索している企業も増えている。
<製薬企業が取り組む主なデジタルヘルス>
●エーザイ:「ひかりワンチームSP」「Me-MAMORIO」
●帝人ファーマ:「バイタルリンク」
●MSD等:スタートアップ企業の発掘
●大塚製薬:「MENTAT」「プレタールアシストシステム」
●ノバルティス:AIを活用した治療の最適化
●ファイザー:眼球運動観測の技術(パーキンソン病(PD)患者の治療・投薬プログラム支援)
地域包括ケアは地域全体を病院(病床)化することであり、デジタルヘルス等により連携ネットワーク・多職種連携においてICTが活用されるようになる。
地域の病床化とデジタル化。この流れは、ICTを用いた情報提供がしやすくなることを意味するのではないか。MRも対面とリモート・ディテーリングの両方ができる“二刀流MR”が勝ち(価値)残る。今は役割を分けている企業が多いと思うが、MRにもリモート・ディテーリングという武器を持たせてはどうだろうか。そうなれば、MRの説明会も距離破壊できる。すべての担当施設向けに同時にWEB説明会を行うことが当たり前の時代になる。
QAなどのフォローは、AIを活用したコールセンターやオウンドメディアが担うこともできるだろう。立ち止まっていては、衰退するばかりだ。
………………………………………………………………… 川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。