タレント・ベッキーの“ゲス不倫”や舛添要一・前東京都知事の公費流用問題以後、“さほど反撃が怖くない相手”へのメディア・バッシングは、常軌を逸した過熱ぶりになっている。この欄でもその都度書いてきたことだが、この一点狙い撃ち、集中砲火方式のスキャンダル報道は、ネットによる騒ぎの増幅で何十倍にも膨れ上がり、下手をすると国民総がかりのリンチ状態さえ作り上げてしまう。
ここしばらくは日大アメフト部の危険タックル問題が、まさに火だるまの状態だ。確かにとんでもない話だし、憎々しい悪役キャラも揃っている。それにしても、ここまで全メディアの総がかりになると、週刊誌的にはどうなのか、そんな素朴な疑問も浮かんでくる。情報番組でもニュースでも朝から晩までこの話をやっていて、そのうえになお人々は、週刊誌の“総力特集”にまで手を伸ばそうとするだろうか。
また今回、ネット世論を見て不思議に思うのは、何人も犠牲者の出たあの戸塚ヨットスクール事件でさえ、「体罰は必要だ」とスクールを擁護する声は聞かれたのに、今回はその手の擁護論が聞かれないことだ。内田正人前監督と当該選手の証言が食い違っている点も、常識的に見れば、どちらがウソつきかは明白だが、それでも昨今の国民気質を考えれば、「録音など決定的証拠はない」「水掛け論」などと言い張って、内田氏側に立つ人がきっといるに違いないと思っていた。だが、そうはならなかった。「もりかけ」の政権疑惑では「決定的直接証拠」以外、山のようにある状況証拠を絶対に認めない人たちも、日大の問題では、そうした無理筋の頑張り方をしないのだ。
ここまで“全国民の敵”になってしまった以上、内田氏や周辺の人々の追い込まれ方も相当なものだろう。責任論を突きつけられている田中英寿理事長は徹底抗戦する気かもしれないが、内田氏以下、アメフト部は全面降伏するしか、もはやない。先輩や監督は絶対、という軍隊的な運動部体質が、この件で全国的に見直されることになれば結構な話だが、個人的にはそろそろもう、バッシング報道は縮小していい頃だと思っている。
そんななか、今週、興味深かったのは、週刊文春のワイド特集の1本、『「安倍を倒すのが使命」籠池夫妻 長男は安倍支持に転向』という記事だ。昨夏の逮捕から勾留約300日。夫妻はようやく保釈を認められ、直後の会見では早速、政権批判をぶち上げたが、以前は両親と同調して安倍首相を批判していた長男は、いつの間にか立場を変え、両親が保釈される直前、フェイスブックに「私は安倍晋三首相を支持し、そして擁護します」という文章を載せたのだという。
記事によれば、この長男は昭恵夫人を支持する面々とこの3月、一緒にインドネシア旅行に行き、それ以来、《180度考えを変えて》しまったのだという。1年余り前、森友問題が火を噴いた直後の会見でも、右翼的な雰囲気が長男の言葉の端々に感じられていたが、一方で会見会場にいた『日本会議の研究』の著者・菅野完氏に密かに目配せし、実家で両親と対面させたのも、たしかこの長男だったはずである。
文春の記事には、通常なら記されていて当然の長男の名前はなく、写真も掲載されていない。何とも不可解な展開であり、記事の書き方にも、どこか緊張感が漂う。籠池一家では長女や次男もそれぞれ、違うスタンスをとっていたはずだが、いったい何がどうなっているのか。日大の大騒ぎさえなければ、「約300日ぶりの夫妻保釈」に合わせ、あれこれと周辺情報が流れていたに違いない。そう思うと、内田前監督に対し、違った意味の腹立たしさが湧いてきてしまう。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。