下手をしたら10年ぶり以上になるかもしれないが、どうしても気になる記事があり、週刊プレイボーイを手に取った。深刻な雑誌不況のこのご時世、いくつもの週刊誌が時事ネタから事実上撤退し、シルバー世代向け“読み物雑誌”と化すなかで、意外にもプレイボーイは思いのほか硬派の誌面を作っていた。これからは時折、チェックすべきかもしれない。
お目当ての記事は『ネット上のゆがんだ“世直し集団行動”を扇動したのは誰だ⁉ 弁護士「懲戒請求」13万件の黒幕の正体とは⁉』というものだ。すでに新聞やテレビでも報じられているが、「弁護士会による朝鮮人学校補助金支給要求に賛同したのは犯罪行為だ」と言いがかりをつけ、全国の多数の弁護士を標的に、ネット民らが総計13万件もの懲戒請求を各弁護士会に送付した。これに対し連休明け、2人の弁護士が、自らの懲戒を請求した全員を対象に、「不当な懲戒請求で業務を妨害された」として損害買収訴訟を起こす方針を発表した。
この2人はそもそも、朝鮮人学校問題の声明にまったく関与しておらず、いい加減なリストアップに巻き込まれたとばっちりの被害者だが、それでも一方には約3000通、もう一方には1000通近い懲戒請求が送られてきているという。
要は「あんな弁護士はクビにしろ」という面白半分の嫌がらせ攻撃に、敢然と反撃に出たわけだが、請求者はひとり数十万円もの損害賠償を払う可能性と直面し、目下、ネット上ではちょっとしたパニックが広がっている。
プレイボーイの記事は、この騒動の一番の責任者、不特定多数に弁護士懲戒請求を呼びかけたネトウヨ・ブログ「余命三年時事日記」の匿名筆者に迫ろうとしたものだ。卑劣にもこの人物はブログ読者を散々煽っておきながら、自分自身は請求を行わず、安全地帯に身を置いたままでいる。
すでに70代になる元民間団体の幹部らしく、記事には最近、本人と会った関係者のコメントが記されている。「今思えば、このブログに敵味方の対立を煽られて、一種のヒステリー状態になっていた」と関与を悔やんでいる請求者の談話もある。
集団での嫌がらせメールや匿名電話など、ネットに跋扈する“愛国者”の無軌道ぶりは実際、目に余る。匿名の陰に隠れ卑劣なデマ宣伝や中傷を繰り返すこうした連中には、法的措置のみが有効な反撃になることを今回の件は知らしめた。不毛な議論より提訴。道理の通じない異常者の集団には、それしかないのだと、改めて痛感する。
今月の月刊文藝春秋には、小池百合子都知事の「カイロ大学首席卒業」という経歴への疑惑を丹念に掘り下げたノンフィクション作家・石井妙子氏の『小池百合子「虚飾の履歴書」』という衝撃的スクープが載った。週刊誌でただ1誌、これを追ったのが週刊新潮だったのが面白い。
『五輪が危うい 「小池百合子」都知事の「学歴詐称」騒動』という3ページの特集だ。“事後的に裏工作で発行させたもの”なのか(かつてのカイロ大学ではそれが可能だった、という関係者の証言もある)、都知事本人は、以前にもこの疑惑で卒業証明書を示している。なので、白黒をつけるのはなかなか難しいことなのだが、石井氏の記事は、カイロ時代のルームメイトの告発を受け書かれていて、首席卒業はおろかアラビア語に太刀打ちできず苦しんだ小池氏の様子が生々しく描かれている。ここまで丹念な取材だと、知事もうかつに“法的対抗措置”は取れないだろう。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。