「やっぱり、在宅医療は(製薬企業にとって)厳しいですね」――。6月15日に都内で開催されたユート・ブレーン(IQVIA)セミナー「在宅医療の実状と医薬品処方、製薬企業の対応を考える」に出演した際に、参加者から帰り際にこうつぶやかれた。
何が厳しいのか。他の2人の講師(現役の在宅医)も指摘していたが、在宅医は基本的にMRと会わない。会う必要性を感じていない。「1日に何人の患者を診られるか?」「何人の患者を常時抱えていればペイラインか?」などの“効率性”を外来中心の医師よりも考えなければならないため、MRにとっての“ゴールデンタイム”に受け身でディテーリングを受けるという意識はないし、WEB講演会も「30分は観ない。15分ならコンテンツ次第で観る。基本はオンデマンドのコンテンツでないと……」という声をよく耳にする。
私が講演の最後に紹介した「まとめ」をシェアしたいと思う。
⇒在宅医は、MRのディテーリングが通用しづらい
⇒在宅医は基本的に「レイトマジョリティ」(後期追随層)。周りが使っていることを確認してから新規処方
⇒在宅医は、必要な情報は自ら取りにいく。薬の情報もDtoDをベースに
⇒1対1のディテーリングは難しい。クリニック内での説明会や基幹病院の講演会に開業医を集めるほうが伝わりやすい
⇒薬剤師マーケティングをベースに「フォーミュラリー」から漏れないような関係性を築く
⇒そのためにMRひとりの力よりも、「連携協定」や「デジタルヘルス」など組織的な「デマンドセンター」としての戦略が求められる
2つ目の「在宅医は基本的に『レイトマジョリティ』」というのは、イノベーター理論の5分類に示すと図のようになる。レイトマジョリティの医師は、周りの医師の多くが新薬を使うようになると少しずつ関心を示すようになる。例えば、最初は認知症の新薬の話を聞いてくれなかった医師でも、担当する患者に認知症が増え、周りの医師が頻繁に処方するようになると、聞く耳を持つようになる。
手前のアーリーマジョリティ(前期追随層)の医師が広く使うようになったカテゴリーについては、他の職種などを通じて説明会などの提案をしてみよう。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。