人気ドラマ『ブラックペアン』が6月24日に最終回を迎えた。同ドラマが扱うテーマのひとつが天才外科医と最新手術機器という“アナログvsデジタル”の構図だ。そして、ドラマでは常にアナログ(人間)が勝った。
しかし、2020年に商用化が見込まれている5G(第5世代移動通信システム)が医療現場でも使えるようになれば、佐伯教授や渡海医師が遠方の患者を手術することが当たり前になるかもしれない。当直医の負担も軽減されることになるだろう。
5Gは、通信速度が現在の4Gの約100倍、1秒間で通過できる容量は4Gの1000倍にもなる。現状は、サッカーW杯をテレビ観戦している家庭とネットで観戦している家庭では、“歓喜の声”に10秒近い時間差が生じるが、5Gではほぼ同時に歓声をあげることができる。
この5GにVR(Virtual Reality:仮想現実)を組み合わせれば、ロシアに行かなくても、観客席に座って観戦しているような臨場感を味わえることになる。4年後のカタールW杯ではVRで観戦できる“指定席”が販売されるかもしれない。
5Gの時代になり、物質とデータや映像との区別がなくなってくる「デジタルネイチャー」に向かうと指摘するのは、筑波大学デジタルネイチャー推進戦略研究基盤・基盤長の落合陽一さん(父親は国際ジャーナリストの落合信彦さん)だ。 「デジタルネイチャー」とは、MR(Mixed Reality:複合現実※現実空間と仮想空間が融合)を超えて、人、Bot、物質、バーチャルの区別がつかなくなる世界であり、そのはじめにBotと人間の区別がつかなくなる世界が早い段階で到来すると落合さんは予想している。
そうなると、リアルMRとバーチャルMRの区別がつかなくなるだろう。「えっ、A社の田中さんって、人間じゃなかったの?」なんてことも起こり得るだろうか。特に、多くのリアルMRを雇えなくなるジェネリックメーカーは、デジタルネイチャーの恩恵を受けられそうだ。
PCの前に座ってWEB講演会や教育用オンデマンドコンテンツを観るというスタイルもなくなり、これまで講演会の中で文字によって紹介されていた症例も、目の前にその患者がいるような体感型の講演・研究会に進化するだろう。
最近、講演会で出会う医師からはネガティブな声ばかり耳にするので、5G後やデジタルネイチャー後の明るい未来を語り合ってみてはいかがだろうか。
個人的には、AIやVRなどが進化するほど、“人に会いたい欲求”が増すと考えている。『ブラックペアン』の佐伯教授の名台詞「最後に勝つのは“人”だ」に共感するのは私だけではないだろう。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。