老親の受診に付き添う一方、管理栄養士学科の学生として臨地実習にも行く、という昨今の生活から、先月に引き続き、受診する側と現場側の立場から経験した病院でのエピソードについて書きたい。


 ◆患者の納得感に差が出る理由 


 80代の母はこの4月以降、腎機能の低下と足のむくみ、血圧上昇がみられたため、かかりつけの内科医から、600床レベルの病院に紹介受診。腎臓内科と泌尿器科の診察で、右高度水腎症の診断を受け、原因と治療方針を精査することとなった。


  これまで3回の受診で行った検査について説明を聞く日、私と父は漠然と「右側の尿路にある結石を破砕して血圧の変化をみる」と言われるのではないかと予想していたが、結果は拍子抜けだった。泌尿器科の方の順番が先にきて、診察室に入るとB医師がPC上で腹部エコーの画像を見せながら「左側が右、右側が左」と、心臓あたりから順次スライス面をどんどん下げていく。腎までくると「ほら、もう実質がこんなにペラッペラで、腎機能もだいぶ落ちてるでしょう」、さらに下げて「結石が確かにあるけどもう治しようがないんだよね~」とおっしゃる。


  内心ひどい言いようだなと思ったが、母は案外さばさばした様子で、数十年来、左の腎膿疱を年に1回、泌尿器科クリニックで診てもらっているが、その先生にも「もう高齢者だからそのままにしておくしかない」と言われている、と答える。するとB医師は「な~んだ、他でも診てもらってたの」、「というわけでいちばん大事なのは血圧のコントロールだから」、「泌尿器科の診察は今日で終わり」とばっさり。診察室を出ると、母は「画像を見たからよくわかった」、父は「で、どうすればいいのかはよくわからなかった」という反応だ。


  B医師の説明を反芻し、次に腎臓内科の順番がきたときA医師に要点を確認することにした。「右水腎症の原因として結石である可能性を泌尿器科に確認してもらったが、その状態は以前からあるもので、この2~3か月で急に起こったものではない。高齢で既に腎機能がかなり落ちているので、結石の破砕などしても、あまり回復は期待できない。リスクに対してメリットが少ないので、血圧コントロールをして様子をみるしかないという判断か」と尋ねてみると、その理解でよい、という。そして、今後の方針として「血圧と腎機能は卵と鶏どちらが先かというような関係で、血圧が高いと腎臓に負担をかけ、腎臓の機能が落ちると血圧が上がります。4月以降クリニックで初めて処方された降圧薬ではまだ十分にコントロールできていないので、別の薬を追加してしばらく様子をみて、コントロールできたところで紹介元に戻して継続していただきたい。その旨、かかりつけの先生に手紙を出しておきます」とのこと。その結果、「今度はよくわかった」と父。


  比較するのは申し訳ないが、何かを問うたときに患者が考えて答えるまでの数秒をせかさず待てるか、要領を得ない患者の言い回しを受け止めて内容を確認できるか、説明する際の言語は明瞭で一方的ではないか、不明点を質問できる雰囲気か、などが納得感の差を生んでいるように感じた。 


◆職種によるコミュニケーション方法の違い 


 さて一方、管理栄養士による栄養相談を見せてもらうと、やりとりの様子がかなり違う。病院での外来栄養食事指導、入院栄養食事指導、集団栄養食事指導にはそれぞれ診療報酬がついている。施設にもよるが、疾患で件数が多いのは糖尿病、高血圧、慢性腎臓病などで、他に外来化学療法後の食欲不振例、術後の腸閉塞予防のための指導などもある。個人相談の動機としては受診や入院時の医師の勧めが目立つが、実際に相談するかどうかは本人が決める。さらに継続的に相談を受けてもらうことは容易ではない。命や予後を直接左右する医師、薬という有効な“物”をもっている薬剤師とは異なり、管理栄養士はある意味で徒手空拳だからだ。入院患者には病院食や栄養剤という手段があるが、相談そのものに対して患者が価値を認めるかどうかは、話の内容次第。


  だから、「わかっちゃいるけどやめられない」患者の不適切な行動を一方的に責めることはない。世間話などもまじえながら、その人の食事や栄養素の摂取状況、食習慣、行動特性などをつかみ、1回30分ほどの相談で、次回までの修正項目・目標を設定し、実行を約束してもらう。有効な指導ができるようになるには臨床経験が必要だが、学生時代にも栄養教育論にそれなりの時間が割かれており、患者に行動変容をもたらすためのさまざまな方法を学ぶ。


  医療における役割が異なるので単純な比較をするつもりはないが、どの職種にも個人差を超えた職業上の行動特性があり、仲間うちではそれが“あたり前”になっている。しかし、他職種のコミュニケーション方法を見たり、もし自分が患者だったらと逆の視点で考えたりする機会があれば、医療者に対する満足度が上がるきっかけになるかもしれないと思う。(玲)