厳しい時代に“上”からいろんな「提案」が出されると、現場の人たちのモチベーションは下がりがちになる。


  厚生労働省は今回の診療報酬改定の議論の中で、疾病の経過に応じ想定される「かかりつけ医の役割」(生活習慣病を有する患者の例)について、①日常的な医学管理と重症化予防、②専門医療機関等との連携、③在宅療養支援、介護との連携――という3つの役割を提示した。すべての役割を1人でこなすのは平均年齢が60歳前後の開業医には無理がある。


  日本医師会と四病院団体協議会は2013年8月8日に合同提言として、かかりつけ医を「なんでも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義していた。前出の「かかりつけ医」の役割と違うのは、③の看取り支援を含めた在宅医療・療養への貢献である。


「在宅(医療)をやれやれ言われるから取り組んでいるけど、本当はもうやめたい」。ホームであるクリニックでの“待ち”の外来診療と、アウェーである患者宅での在宅診療では、心理的な負担感がまったく違うという声を講演会後の情報交換会で聞くことがある。彼らのネガティブな声を聞いていると、在宅医療に取り組む医療機関を増やすのは困難であることがわかる。今後は、せっかく在宅医療を始めても、撤退する医師が増えるかもしれない。そのため、在宅医療専門のクリニックを優遇する政策にシフトしなければならなくなるだろう。


  筆者は「2018年度診療報酬改定13のメッセージ」のひとつに「“かかりつけ” の「定義」を地域に合わせて自ら考えよう」を挙げた。各地域の人口構造や状況が違うのだから、すべての「かかりつけ医」が①~③のすべてをカバーする必要があるとは思えない。だから、自らその定義を考えるべきだと思う。


「レブロンの工場では化粧品をつくっているが、店舗で売っているのは希望である」


  これは、米化粧品レブソンの言葉である。つまり、化粧品メーカーは希望産業というわけだ。医薬品業界も同様だ。


 私が医療人から述べられた定義で好きなのは熊本大学薬学部の平田純生教授による「薬剤師とは、有効かつ安全で、目の前の患者さんに配慮した最高の薬物療法を責任を持って提供する人」というものだ。


 自らの仕事をこのように定義した薬剤師は、高いモチベーションで日々の業務にあたっているに違いない。


「MRとは、医師に新たな処方習慣・治療戦略を提案し、医師だけでなく、他の医療従事者と患者・家族を含むすべてのプレイヤーを幸せにする人」と、MRのことを私は定義しているが、ぜひ、自らの仕事を定義してみよう。   


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。