7月23日の大暑に至る以前に、最高気温が35℃以上の「猛暑日」と、夜の気温が25℃以上の「熱帯夜」が続いてきた今夏。テレビからは、「ためらわずに冷房を使ってください。寝る前に水を飲んで、枕元にもペットボトルの水を用意しておくとよいでしょう」というアナウンスが毎日聞こえてくる。
◆湿球黒球温度(WBGT)を活用しよう
放熱による体温調節に影響を及ぼす環境条件(温熱環境)には、気温、気湿(相対湿度)、気流(気動)、輻射熱(赤外線)がある。だから、同じ気温でも、湿度が低めの日、風が吹いている日、日陰にいるときは涼しく感じる。
1954年、アメリカの海兵隊新兵訓練所で、これらの条件を考慮して熱中症のリスクを事前に判断するために開発されたのが湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature; WBGT)だ。WBGTの算出には、以下3つの値を測定する。
①湿球温度(Natural Wet Bulb Temperature; NWB)→湿度の効果 水で湿らせたガーゼを温度計の球部に巻いて測定。空気が乾いているほど乾球温度との差が大きく、皮膚の汗が蒸発するときに感じる涼しさ度合いを表す。
②黒球湿度(Globe Temperature; GT)→輻射熱の効果 黒色塗装した銅板の中空内の温度を測定。弱風時の日なたにおける体感温度と相関。
③乾球温度(Natural Dry Bulb Temperature; NDB)→気温の効果 通常の温度計による気温を測定。
日射の有無と、①②③の影響度合いを考慮し、次の式でWBGTを計算する。計算式からは、湿度の効果が大きいことがわかり、室内で熱中症が起こりうることもうなずける。 屋外のWBGT(℃)=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度 屋内のWBGT(℃)=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
WBGTの単位は℃だが、通常の気温と数値は異なり、21~25℃で熱中症に「注意」、25~28℃で「警戒」、28~31℃で「厳重警戒」、31℃以上で「運動は原則禁止」だ。
WBGT(通称;暑さ指数)の実況と予測値は、環境省の「熱中症予防情報サイト」やNHKの「防ごう熱中症」のサイトで確認できる。
後追いではあるが、愛知県豊田市で小1男児が亡くなった7月17日の値は、9時30.0℃(全国ランク6位)、10時32.0℃(同1位)、11時33.1℃(同2位)と、「厳重警戒」から「運動禁止」に相当するレベルだった。学校関係者はWBGTをよく理解し、もっと活用してほしい。
◆高温環境というストレスへの対処
熱中症は、環境だけでなく、からだの状態や行動などの条件が複雑に絡み、体温調節のための反応が低下・破綻したときに発症する。
高温環境はヒトにとって一種のストレスだ。ストレスは体たんぱく質分解を亢進させて、たんぱく質の必要量を増加させる。ストレスに何とか対応しようと交感神経が興奮する「警告反応期」にはアドレナリンなどカテコールアミンの分泌が増え、その生成に関わるビタミンCの必要量も増す。酸化ストレス軽減の観点からは、ビタミンCを含め、ビタミンE、β-カロテンなどの抗酸化ビタミンの摂取が望ましい。また、高温環境では、皮膚血管拡張と発汗での対応調節が限界を超えると、代謝量が増えるため、その分のエネルギーを確保しなければならない。体温上昇を抑制し、体液の浸透圧の量を維持するために、水分と電解質(主にNa)の補給も欠かせない。
日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2015」では、熱中症の予防・治療に対し、「塩分と水分の両者を適切に含んだもの(0.1~0.2%の食塩水)が推奨される」としている。市販のスポーツドリンク等を利用してもよいが、塩分が少なめ、糖分が多めのものが多いことを認識し、Na量が100mLあたり40~80mgを目安に選ぶことを勧めている。
自分でつくる場合は1Lの水に1~2g(参考:精製塩小さじ1杯5g)程度の食塩と砂糖20~50g(参考:上白糖大さじ1杯9g、上白糖50gを用いた場合、190kcal)を加えたものが効率よく水を吸収でき、有効な予防になるという。試しにつくってみると、お世辞にもおいしいとは言えないが、慣れれば結構いけそうだし、何よりも手軽なのがよい。 「暑いけれど、気をつけていれば大丈夫だろう」という漠然とした過信は禁物。必要な情報を集めること、情報が集めにくい立場の人には伝えることで猛暑をのりきろう(玲)。