●科学的にアルカラインダイエットを伝えていく
一般社団法人日本がんと炎症・代謝研究会の代表理事は、前回のJMTOでも理事長を務めていた和田洋巳・元京大教授。
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和田屋前で。中央が和田氏。右は佐々木充子医師、左は料理担当の樫幸さん[/caption]
JMTOはがんにおける医師主導試験の国際化、共同化をめざす集学的組織だが、この研究会は和田氏が7年前に京都市内で開業した「からすま和田クリニック」を中心に、がんの炎症反応解明に科学的アプローチを試みつつ、腫瘍組織微細周辺部位をアルカリ化することで、寛解までの治療をめざせるのではないかとの和田氏の仮説を基本として活動している。特に第Ⅳ期のがん患者の劇的寛解例から学ぶという、事例検証に基づいた治療を実践、成果も挙げ始めている。
劇的寛解例の研究から、患者に苦痛を与えないがん療法の開発を主眼に、尿のpHを酸性からアルカリ化する食事療法の試みも開発、すでにレシピが出版されるなど、研究会の基軸である「からすま和田クリニック」の認知度は急速に拡大している。食事療法を実践するサロン、「和田屋」は京都の町家を改装したもので、17年から毎月1回、日帰りで3食の「がんに負けない体をつくる」食事を提供する試みも始めた。この試みは、東京でも行われ、1泊4食のコースに60人が参加したこともある。尿を酸性からアルカリ性に変えていく食事療法は「アルカラインダイエット」と呼ばれる。
こうした試みは最近になって多数のメディアの関心を集めるようなった。関心の基本はⅣ期からの生還、劇的寛解例など成功例に今のところ集まるが、この研究会は従来のがん標準療法を見直し、個々の適性に合った食事を含めた治療法の開発と、その科学的根拠の集積が目的だ。この療法のスタディは、京大病院の倫理委員会もクリア、近くケースコントロールスタディが始まる予定だ。
開業から7年を過ぎた「からすま和田クリニック」を訪れた患者は3200人を超える。当然、症例数も豊富になってきたわけで、和田式、あるいはアルカラインダイエットがこの研究会を通じて臨床家の世界にも広がることが和田氏の希望だが、まだ代替的な治療のイメージに囚われる医師も多いのが現状。同研究会がこうした状況に風穴を開けられるかに関心は集まる。今回は同研究会の活動と、和田屋を軸とした食事療法などについて、2回に分けてレポートする。
●がんにならないための免疫力をつける方法の開発
日本がんと炎症・代謝研究会は2014年に和田氏らが設立した。6月に京都市内で第5回の学術集会を開催、100人近い人が集まった。
研究会のホームページから研究会設立のめざすところを要約してみよう。(要約は筆者によるもの)。
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・現在のがん治療は、手術療法、抗がん剤療法、放射線療法といった3大療法が標準的な治療として刻々と進められている。一方で、抗がん剤による化学療法には強い副作用が伴うという問題点も提起されている。
・現在、人の死因の第1位が「がん」。1981年以降、2位の心臓病、3位の脳卒中を抑えて、がんが死因のトップ。3人に1人が、がんで亡くなる時代。
・研究会は、炎症と生体の代謝についての遺伝子および細胞レベルから、がん発生のメカニズムを究明する。また、がんを人体から排除する(がん)免疫システムの研究を基礎・臨床にまたがって推進する。
・現在、がんのみを選択的に殺す(なくす)方法はない。がんの増殖を抑えつつ、静かに落ち着かせる必要があるが、そのためには患者さんの「からだ力」を高めることが非常に大切。「からだ力」とは、がんにならないための「免疫力」のこと。
・また、食事や運動、生活習慣ががん発生の大きな要因になるという見解に基づき、患者さんの「からだ力」および「QOL」を高める各種療法も平行して探求したい。
・この見地から研究会は、医師・研究者・企業の創薬者などとの学術交流や情報交換を積極的に推し進めていきます。そのための施策として、著名な医師や研究者等を招き、定期的な学術講演とセミナーの開催を予定したい。
・一方、がん治療の研究者やがん専門医を育成していくことも本研究会の重要な任務。
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●徐々に関心高まる「和田屋のごはん」
和田氏は、「疾病は基本的に生活習慣病が原因」だと考えていいという。むろん遺伝子を病因とすることもあるが、「自らの体を整える」という生活習慣を国民が獲得すれば、「医療は健全に進む」とも。この考え方には、がん治療をはじめとして高額な医療費がかかる現在の診療のあり方を変革させるための国民意識の啓発という目的もありそうだ。
「体を整える」ためには、食事のあり方がキーポイントになる。設立理由にある、「患者のからだ力、QOLを高める各種療法の探究」を具体化したのが、「和田屋のごはん」。東京では今年6月から、京都では昨年から毎月、和田屋のご飯を実感する3食の日帰り体験コースも設定、実行している。東京では60人、京都では24人が定員だが、いつも予約は満杯だという。患者や一般市民のがん治療や、生活習慣病対策に対する関心の強さが垣間見える。一方では、保険適用診療や、標準療法の枠組みから抜け出せない現在のがん治療の状況に対する不満や不安が潜在化しているとみることができる。
表1と図1は、昨年3月に和田屋のアルカラインダイエット(1泊4食)に参加した人の尿pHデータ。食事前後でのpHは23人中19人で有意にアルカリ値に移行していることがわかる。かなり劇的な変化だが、これが1泊4食で見えたことは、長期の食事療法では相応の効果が期待できるということかもしれない。
表1
図1
「和田屋のごはん」のレシピ集は、和田屋を運営する㈱WICOM研究所が出版しているが一般書店では売られていない。同書中では、7日間、14日間などのレシピが掲載されている。塩分を控える、野菜を中心とするなど、一般の食事療法本と変わらないように見えるが、からだを抗酸化する、アルカラインダイエットの重要性が強調されているので、説得力は大きい。また「乳製品は摂らない」と断言しているなど、治療食であることが明確に示されていることも特徴になっている。
次回は、和田氏が進める「がん周囲微細環境(TME)を変えるがん治療」の解説を中心に、アルカリンダイエットとがん治療について、研究会の報告を眺める。(幸)