今週の各誌はお盆前の合併号。文春と新潮には週刊誌らしい派手な記事が並んでいる。文春は『櫻井翔 小川アナからミスコン女王への乗り換え愛 二宮和也 元女子アナとの南の島婚前旅行を直撃』という記事で、人気グループ「嵐」を構成するメンバーふたりの女性関係をスクープした。新潮は『爆笑問題「太田光」を裏口入学させた父の溺愛』という、これまた芸能人ネタをすっぱ抜いている。


 ただし、太田氏の記事は30数年前、日大芸術学部への入学が「裏口」だったという匿名証言で書かれているのだが、当の太田氏はラジオ番組で記事への怒りを爆発させ、事務所社長を務めている光子夫人も法的措置をとる、と宣言した。新潮との激烈なバトルになりそうな雲行きだ。


 一連の日本ボクシング連盟のお家騒動でも、両誌は特集を組んでいる。「奈良判定」だとか特別製の豪華な椅子だとか、マンガチックな“暴君ぶり”が取り沙汰されている「終身会長」山根明氏(8日に辞意表明)をめぐる問題である。


  文春記事はオーソドックスに『山根明「悪の履歴書」』というタイトルで、その人物像を掘り下げているが、新潮のほうは『韓国から密航、息子と極貧の車上生活……大悪人にされた私の「血と骨」すべて明かす』。こちらは「独占手記」とうたってはいるが、おそらく本人が書いた文ではなく、編集部がインタビューを構成したものだろう。この手のインタビュー構成記事について、一時は「独占告白」と正確に表記する動きもあったのだが、最近はまた、昔風に「手記」をうたうものが増えている。


 かといって、新潮記事も必ずしも山根氏の擁護一色ではなく、本人談の合間に挟まれた「地の文」の記述は概ね中立的である。氏を糾弾する告発者グループにも山根氏と同様、「反社会勢力」とつながりを持つ者がいる。そんな事実から“どっちもどっちの権力闘争”という印象を示すにとどまっている


  この件では、「もともとああいう(デタラメな)性格の人だから、本人を責めても仕方がない。むしろ、それを許してきた連盟の取り巻きのほうが罪深い」とする意見をワイドショーで聞き、確かに、と納得したものだった。 


 今週号の文春『安倍晋三「恥ずかしい国へ」「なんで杉田水脈で世間は騒ぐの」「反安倍なんていない」』という記事に対しても、似たような感想が浮かんだ。ここまで能天気な“裸の王様”を責めても仕方がない。問題はむしろ、そこにひれ伏す自民党全体の不甲斐なさに思えた。とくに“保守本流”を掲げ続けてきた宏池会の岸田文雄政調会長が、総裁選に参加せず軍門に下った光景には、正直失望した。


 8日夜、翁長雄志・沖縄県知事が死去。政府による米軍基地負担の押しつけに抗い続けた反骨の知事だった。若き日に自民党県連の幹事長も務め、沖縄の“ミスター自民党”とでも呼ぶべき立場にいた人が、ここまで先鋭的になったのは、まだ那覇市長だった2013年1月、辺野古新基地とオスプレイ配備に反対する県内市町村長らの銀座パレードで、沿道のヘイト団体から「売国奴」などと罵声を浴びた体験が大きかったと言われている。  知事自身はのちに、異様なヘイト集団そのものより、その傍らを何ごともなく歩き抜ける銀座の買い物客、一般市民の光景にこそ、恐ろしさを感じた、と語っている。嫌がらせを仕掛けてくるいじめっ子本人より、その傍らでニヤついている追従者、あるいは“見て見ぬふり”をする同級生のほうに憎しみが湧く。幼少期の記憶を遡れば、その感覚はわかる気がする。 


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山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。