「現役のMRさんに向けて私からお話ししたいことがあります。それは、近いうちにMRさんの行っている“情報提供業務”はニーズが減っていくだろうということです」――。


  総合南東北病院外科医長の中山祐次郎さんの著書『医者の本音』には、MRへのメッセージが書かれている。「合コン相手で最も多かったのはCA(キャビンアテンダント)」などの記述もあり、読み物としても楽しめる。


  冒頭のメッセージの後には、「いまや『〇〇という抗がん剤の副作用に吐き気ってどれくらいあったっけ?』と医者がつぶやくだけで、AIが即座に『臨床試験では、15~32%、市販後調査では35%と報告されています』と返事をしてくれる。そんな時代は目前です」と指摘されているが、この程度の技術を実現するのは当社でも可能だ。いずれは、病院ごとにこうしたAIを導入するようになるだろう。


  この図は、『「こんなもの誰が買うの?」がブランドになる 』(阪本啓一著)を参考につくったものだ。顧客側、我々で言えば医療従事者側が自ら情報を得るのが困難な状況では、情報提供側である製薬企業(MR)の“基準”がベースとなり、受け手側は「そんなものだろう」と認識して情報提供を受ける。 



  しかし、ネットで最新の情報を得られる時代には、顧客側の期待値が上がるため、企業側が「基準」を上げないと満足を得ることが難しくなる。この10年くらいは、この傾向が悪化しているのが実情だろう。さらに前述のように、AIが質問に回答してくれるようになると、リアルMRに会う理由が薄くなり、中山医師が指摘するような状況になるだろう。


 先日、著名な在宅医のトークショーを取材した。彼は、テクノロジーの進化により在宅医療・介護の需要は“激減”すると断言し、「どういうテクノロジーを使えば患者にいいかという視点が求められるようになる。テクノロジーに埋められないことを人間が埋めなければならない」と指摘していた。


  MRも同じだ。AIを含めたICTがどこまで進化するかは予測が難しい。しかし、テクノロジーに埋められない部分が必ず生じ、また、新しいテクノロジーが生まれることによって、新しい悩みも生まれる。その“隙間”を埋めるのが生身の人間である。


 隙間を埋める人材になるためには、常に「基準」を上げ続けなければならない。


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。