研ファーマ・ブレーンは約20年にわたってまとめている「2017年世界の医薬品メーカーランキング」及び世界の大型医薬品をまとめた「2017年世界の大型医薬品売上高ランキング」を公表した。これは各社が公表している決算の詳細に基づいて作成しており、メーカーランキングは医療用医薬品とワクチンの売上高で、大型医薬品ランキングは「創薬したメーカーのオリジナルの製品が世界でいくらの売上となったか」を各社の売上合計からまとめたもの。
■2017年世界の医薬品売上高ランキング(メーカーランキング)
このランキングは各社の決算発表資料や年次報告書等から医療用医薬品、ワクチン、ロイヤルティ等の売上げをまとめており、大衆薬(OTC)や動物薬、検査薬などを除外したもの。ただし、詳細非公表のメーカーは全売上高で(表では35位のフランスのセルヴィエ)、R&D費の右列に全売上高も示した。為替レートは年平均レートで、1ユーロは前年比+2.1%の1.1291ドル、円は▲3.0%と少し円安に進んで100円が0.8913ドル(1ドル112.20円)となった。
今回は日本の武田薬品(18位)が買収することで合意している17位のシャイアーとの合計額も参考として示した。日本は少し円安となっために17年度の武田薬品の医療用医薬品売上げはシャイアーに抜かれたが、16年の為替レートならシャイアーより上になる。2017年の医薬品売上高を単純に合計すると、表にあるように世界ではグラクソ・スミスクラインを抜いて7位となる。シャイアーは血液製剤の世界最大手であるバクスアルタを2016年6月に買収しており、17年は通期で売上げが加わったため33%増の151.61億ドルとなり、100億ドル以上の24社では最も伸びが大きい。なお、研究開発費(R&D費)については、血液製剤メーカーはもともとR&D費がが少なく、シャイアーもオーファンドラッグが中心でR&D費は少ないため、武田薬品と合計しても46.6億ドルで上位6社のR&D費よりかなり少ないが、7位のグラクソ・スミスクラインの46.7億ドルとほぼ同じとなっている。なお、表にあるR&D費は事業別に公表されている場合は医療用医薬品やワクチンのR&D費。4位のジョンソン&ジョンソン(J&J)は年次報告書でのみ医薬品事業のR&D費を示しており、17年は83.6億ドルで過去最高となり、医薬品に対するR&D比率は23.1%でこれも過去最大だった。
世界の大手を中心にいくつかのポイントをまとめると次の通り。
◆世界で100億ドル以上の医薬品メーカーは2016年、17年とも24社で同じ。
◆ファイザーはトップで17年と同じだが、ロシュが2位、ノバルティスが3位で入れ替わり、ジョンソン&ジョンソンが8.3%増と好調で6位から4位へ上昇した。
◆2位に上昇したロシュは17年には3大抗がん剤のバイオシミラーの影響を受けず、米国で17年4月に発売した抗CD-20抗体の多発性硬化症薬であるオクレバスが8.8億ドルまで伸び、免疫チェックポイント阻害剤のテセントリクもほぼ5億ドルまで伸びたことから、6.0%増の441.83億ドルとなった。ただし、ヨーロッパでは18年上半期にリツキサンの売上げがバイオシミラーの影響で▲47%の5.41億ドルと急減し、8月に入って子会社の米ジェネンテックの223人を削減することが報じられている。
◆ランクを2つ上げて4位となったジョンソン&ジョンソン(J&J)はトップ製品のレミケードがバイオシミラーの影響を受けて▲9.6%の63.2億ドルで6.5億ドル減少したが、2位の乾癬薬ステラーラが23.7%増の40.1億ドルで7.8億ドル増えたほか、バイオの新製品である多発性骨髄腫薬ダラザレックスが2年目で12.4億ドルとなり、肺高血圧症薬のアクテリオンを買収したことも貢献し、8.3%増加して362.56億ドルとなった。
◆サノフィはユーロ高が貢献して5位を維持したが、トップのインスリン製剤ランタスは2014年のピーク時の84.3億ドルから17年は52.2億ドルまで減少していることが大きく、医薬品とワクチンの売上げ合計は横ばいで伸びていない。メルクは免疫チェックポイント阻害剤のキイトルーダが伸びているが、パテントが切れたゼチーアのほか、ヨーロッパで販売しているレミケードも▲34%と減少し、0.7%増の353.90億ドルで6位に下落した。18年はキイトルーダが2倍以上に伸びており、5位となる見込み。
◆アッヴィはトップのヒュミラが14%増の184億ドルで、買収で獲得した白血病薬のイムブルビカが伸び、10.1%増の282.16億ドルで8位へ上昇した。ギリアド・サイエンシズはC型肝炎薬市場の縮小が大きく、16年は▲6.9%の303.90億ドルで7位だったが、17年は▲14.1%と2桁減少して261.07億ドルで9位となった。2018年上半期の世界ランキングでは、ギリアド・サイエンシズが11位で順位をさらに2つ落としている。
◆アムジェンとアストラゼネカはいずれも減収であるが、下落幅が▲2.3%で少し大きかったアストラゼネカが11位、アムジェンが10位で入れ替わった。
◆ブリストル・マイヤーズスクイブはオプジーボと抗凝固剤トップとなったエリキュースを大きく伸ばしているが、全体では6.9%増の207.76億ドルで12位は変わらず。
◆日本のメーカーでは、武田薬品工業が7.8%増と伸ばしたが、先述の通り円安でシャイアーに抜かれた。アステラス製薬は▲0.9%と微減だったが、セルジーンやバイオジェン、マイランに抜かれて24位へ下落した。第一三共も▲0.1%とわずかながらマイナスだったが、1つ上のアステラスとは36.8億ドル離れているため、25位は変わらなかった。大塚ホールディングスは3.3%増となったが、オーストラリアの血液製剤大手であるCSL(CSLベーリング)が11.1%増となった影響でCSLに抜かれて27位となった。なお、オーストラリアの企業は6月期決算が多くCSLもそうだが、CSLは事業別の売上げ詳細が不明で全体の売上高のため、1~12月で計算した数字を用いた。
◆表の最下行に示したように100億ドル以上の24社の合計では3.3%の5,753.53億ドルとなった。これはシャイアーの37.6億ドル増、アッヴィの25.8億ドル増、ロシュの25.5億ドル増などが特に貢献している。
◆200億ドル以上は12社、100~200億ドルも12社あるが、50~100億ドルには7社しかない。世界の上位100社をまとめると、100位はスペインのアルミラルで売上高は8.53億ドルとなっている。上位100社の売上げ合計のうち、100億ドル以上の24社が75.6%を占めており、この比率は16年から75%を超えていて世界的大手の寡占化が進んでいる。24社が100社の75%を超えるとなれば、上位20%が全体の80%を占めるという「パレートの法則」に近づいている。これは降圧剤やスタチンなど慢性疾患薬の多くがジェネリックとなり、医薬品も普遍化してコモディティとなった結果とも言える。
◆30位で▲11.7%となったヴァレアント製薬インターナショナルは株価が急落してイメージも悪化したため、コンタクトレンズや眼科関連で有名な子会社ボシュロムの一部をとり、18年7月に「ボシュ・ヘルス・カンパニーズ」へ社名を変更している。
■研究開発費(R&D費)ランキング
上の表では2017年の研究開発費が30億ドル以上の16社とそれに続く17位の武田薬品のランキングを示した。なお、メルクは2016年分からR&D費を変更しており、17年にはアストラゼネカの抗がん剤リムパーザの提携で20億ドル以上支払った分を加えているため、2017年のR&D費の1位はメルクとなった。16年分も決算公表時に71.94億ドルだったのを101.24億ドルに修正しているものの、16年はロシュに続く2位だった。
表ではR&D比率が25%を超えるところにアミを掛けたが、R&D費が50億ドル以上の上位10社のうち、半分となる5社が25%を超えている。R&D費が30億ドル以上の16社では半分の8社が22%を超えており、抗がん剤やバイオが増えて増加傾向にある。
■2017年世界の大型医薬品売上高ランキング
次に示したのは2017年の世界の大型医薬品売上高ランキングである。ここでは世界で30億ドル以上の上位36製品の売上高を示した。ドル換算値は先のメーカーランキングと同様に2017年の年平均レートで集計した。表の製品名にアミを掛けたものはバイオ医薬品、一般名にアミを掛けたものは日本のメーカーの創製品、前期比は2社以上の製品合計の場合にアミを掛けた。
この大型医薬品ランキングは、メーカー各社が公表している医薬品の売上げに基づき、創製したメーカーの売上とロイヤルティ、それをライセンスしたメーカーの売上げを合計することにより、「オリジナルのメーカーが創製した医薬品が世界でどれだけの売上げを創り出したのか」という世界売上げを過去20年近くにわたってまとめているもの。そのため、世界的大手が1社だけで販売しているものより、2社以上で販売している製品のほうが共同販促の売上げやロイヤルティも加わって多くなる。
表で40億ドル以上の23製品のうち前期比の伸び率が最も高いのは6位のエリキュースの50%増であるが、これはファイザーが開発費の半分以上を負担しており、創製したブリストル・マイヤーズスクイブと共同販促している国ではBMSが全額計上して売上げの約49%をファイザーへ分配し、ヨーロッパの小国などファイザーだけが販売している国ではファイザーが全額計上してBMSに製造費+ロイヤルティを支払っている。そのため、実際の売上げでは重複分が多いが、両社とも大きく伸びているために50%増の74.0億ドルとなった。同クラスの直接Xa阻害剤であるバイエルのザレルト(日本名イグザレルト)は米国の販売権を持つJ&Jが米国では全売上げを計上し、共同販促しているバイエルに23%強を支払っている。2016年は10位のザレルトの合計額のほうが多かったが、1日2回のエリキュースのほうが出血のリスクが少し少ないとされて50%増と大きな伸びが続いており、エリキュースがザレルトを抜いた。
表の36製品のうち、患者数の多い慢性疾患の低分子薬を見ると、6位のエリキュース、10位のザレルト/イグザレルト、11位の糖尿病のジャヌビア(配合剤を含む)、神経性疼痛で多く使われる15位のファイザーのリリカ、ほかでは抗喘息やCOPDの呼吸器用薬で、22位のグラクソ・スミスクラインのアドエア/セレタイド、32位のベーリンガー・インゲルハイムのスピリーバ、35位のアストラゼネカのシムビコートだけとなり、30億ドル超で高脂血症のスタチンや降圧剤のARB、抗潰瘍剤のPPIはなくなった。バイオで患者数の多いのは16位でサノフィの持効型インスリンのランタス、18位で即効型および中間型インスリンのノボラピッド/ノボミックス、同じく糖尿病薬でGLP-1アナログのトップ製品であるノボ・ノルディスクのビクトーザで、いずれも糖尿病薬。サノフィはランタスのバイオシミラーが登場して米国では糖尿病担当者を大幅に減らしており、他の大手もスタチンやARB、PPIなどの担当者はほとんどいなくなっている。循環器系の慢性疾患薬の大型品はエリキュースとイグザレルトだけとなり、糖尿病の経口剤はDPP4阻害剤やSGLT2阻害剤があるが、30億ドル以上ではDPP4阻害剤のジャヌビアだけである。DPP4のトラゼンタはベーリンガー・インゲルハイムとイーライ・リリーを合わせて20.4億ドルで66位に入った。呼吸器用薬の3大製品であるアドエア、スピリーバ、シムビコートはすべて減収であり、大きかった呼吸器用薬市場も世界的には2012年から縮小が続いている。
世界で30億ドル以上の36製品のうち、日本のメーカーが創製した最大の製品は小野薬品のオプジーボで世界12位となり、ブリストル・マイヤーズスクイブの売上げとロイヤルティを加えて61.1億ドルとなった。2位は塩野義製薬が創製した抗HIV薬でインテグラーゼ阻害剤と呼ばれるテビケイで、テビケイを含む3剤配合剤のトリーメクの売上げや塩野義のロイヤルティを加えて35%増の58.5億ドルとなった。これに続くのは田辺三菱製薬が創製した多発性硬化症薬のジレニア/イムセラで26位の37.4億ドルとなっている。
◆急減した市場の例-ARB製剤
ここでは日本でも多くのメーカーが売上げを獲得してきた降圧剤のARB市場の世界の売上げ推移を紹介する。
これは売上げを公表しているブランド品のARBについて世界中のメーカーから可能な限り集めてそれらを集計したものである。実際の各製品売上げは「薬効別売上ランキング」でARB市場をまとめた号に毎年掲載している。
ARB市場は2009年がピークの232.3億ドルで、1ドル110円なら2兆5553億円の市場があった。スタチンのピークは2010年で234.5億ドルあったのでスタチンのほうがARBより少し市場が大きかったが、ARBは2017年に70.5億ドルでピーク時の30%強に対し、スタチンはピーク時の25%まで減少した。一方、オプジーボやキイトルーダを含む抗がん剤市場は、2011年には653億ドルだったが、2017年には1111億ドルまで拡大した。2番目に大きい市場はヒュミラやレミケードなどバイオの自己免疫疾患薬(リウマチ、乾癬、クローン病等)で、2017年の市場は529億ドルとなり初めて500億ドルを超えた。ARBもスタチンも2011年から150億ドル以上減少したので、世界的大手であれば抗がん剤やバイオの大型品を持たなければ売上げを拡大できない状況となっている。
★2017年世界の医薬品メーカーランキング/大型医薬品売上高ランキングについて
「2017年世界の医薬品メーカーランキング」「2017年世界の大型医薬品売上高ランキング」についてさらなる詳細をまとめたデータは、「新ファルマ・フューチャー」2018年6-7月特別号 No.13 に掲載しています。メーカーランキングでは世界の3億ドル以上の138社、大型医薬品ランキングでは世界で3億ドル以上の370製品を表にまとめて分析しています。なお、これらのデータは決算発表や年次報告書で公表されている売上げを元に、研ファーマ・ブレーンが独自にまとめたもので他社の調査データとは一切関係がございません。この情報誌については下記を参照下さい。
「新ファルマ・フューチャー」2018年6-7月特別号 No.13 ランキング特集http://shop.risfax.co.jp/products/detail.php?product_id=512
「新ファルマ・フューチャー」は研ファーマ・ブレーンが編集・発行し、医薬経済社より発売している隔月刊誌で、偶数月の月末発行。6-7月特別号はランキング特集でページ数が毎年約80頁と多いため、単品でのご購入は12000円+税、年間購読では10000円+税に相当しています。それ以外の号(約63頁)は単品で10000円+税、年間購読で8000円+税となり、年間購読料(年6回)は50000円+税となっています。 トップページの「www.risfax.co.jp」からもリンクされています。
<研ファーマ・ブレーンについて>
研ファーマ・ブレーン 代表 の永江研太郎は、元(株)ユート・ブレーン取締役。1996年、ユート・ブレーンより海外医薬品業界情報誌を創刊。1999年3月には厚生省(当時)から委託を受けた「先進諸国の医薬品産業及び医療環境について」の調査報告書(全340頁)をまとめており、20年以上にわたって海外の医薬品業界に関する調査・執筆のほか、「欧米の医薬品市場の変化」などの講演活動を行っている。
2016年5月に「研ファーマ・ブレーン」として独立し、海外医薬品情報誌「新ファルマ・フューチャー」を同年6月末に創刊した。2018年6-7月特別号は第13号となる。新ファルマ・フューチャーを執筆・編集発行する傍ら、現在も大手製薬企業での講演や業界誌、経済誌等で執筆を行っている。
このリリースに関するお問い合わせ、引用・掲載依頼等のご連絡は、 kentaro.nagae@gmail.com へお願いします。
今回はリリース発行が遅くなりましたが、今年は武田薬品によるシャイアーの買収発表もあり、ランキングのデータは「週刊ダイヤモンド」のほか、多くの新聞やテレビの報道でも利用されています。