週明けに現代とポストを、週半ばには文春と新潮を斜め読みしたうえで、締め切り直前にパソコンに向かう。そんないい加減な感じで、いつも書き始めているのだが、今回はあまりに各誌の印象が薄く、改めて4誌を読み直すハメになった。 


 その理由はやはり、総選挙のつまらなさにあるのだろう。新聞各紙によれば、自民が圧勝する気配らしい。同じ自民圧勝でも、小泉郵政選挙では造反組と刺客との死闘が“客寄せ”になった。今回はそんな見所すらないのだ。 


 パラパラと各誌をめくっていて唯一目にとまったのは、小沢一郎氏へのロングインタビュー(ポスト)。子飼いの議員たちに他党への“転籍”を勧めたうえでの孤軍奮闘は、往年の剛腕ぶりを思えば、寂寥感漂う風景である。もちろん、こんなタイミングでの述懐に、自己批判はないのだが、それでもなかなかに興味深い。 


「秘密保護法だって、国家を守っていくという建前で、それに盾突くやつは国賊という話になっちゃうわけだ」


「大企業が空前の利益をあげているにもかかわらず、非正規を増やして、働く人に分配されていない」 


 いつの間に社民党員になったのか、と思うような発言だが、氏は「民主主義は社会民主主義を取り入れ、結果、資本主義が生き延びてきた」と言い、安倍首相のような弱肉強食を是とする考えを「反歴史的だ」と切り捨てた。社会主義を取り込んだ資本主義。氏の師匠で昭和の庶民派宰相であった田中角栄の姿が、ぼんやりと透けて見える。思えば、昭和の自民党はみな、こんな感じだった。 


 現代には、高次脳機能障害によって認知症のように記憶を失い始めている女優・吉田日出子さんの「告白」が載った。彼女の半生記の刊行に合わせた一種のPR記事だが、インタビューそのものは2年前のものだという。 


 欠落してゆく記憶を補いながら舞台に立つ。切ない気持ちを掻き立てる吉田さんの告白だが、それから2年、今の状況はどうなのか。症状の進行に伴い、心の整理をどうつけてゆくのか。そこにこそ、明日は我が身の問題として関心のポイントはあるのだから、「今」の体調と彼女の最新の言葉も付け加えてほしかった。 


 新潮には、自宅で酔って転倒し、腕を骨折した読売グループの総帥「ナベツネ」こと渡辺恒雄会長(88)の入院をめぐる読売新聞社の緊張ぶりが伝えられている。長年に及ぶ氏の“独裁体制”がやがて終わるとき、果たしてこの巨大メディアで何が起きるのか。 


「誤報問題」で揺れる朝日新聞社とはまた違った形で、読売もまた、そのあり方が根底から問われる重大な転機を迎えつつある。新潮の記事そのものは、見開きのごく短いものだが、創価学会の池田大作氏と並んでもうひとり、巨大組織に君臨する“昭和の巨魁”をめぐる情報から目が離せない。 


 さて、本欄で筆者がネチネチと触れてきた作家・百田尚樹氏の問題が、ついに文春に載った。といっても、編集部の記事ではなくコラムでの話。「知らん顔をしていようかと思ったが、やはり書かずにはいられない」と筆を執ったのは、作家の林真理子さんである。 


 彼女は百田氏の連載を控える文春の事情も明かしたうえ、雑誌もテレビも一切この問題触れない異常さを指摘して、「ものすごい不気味さを感じるものである。この言論統制は何なんだ!」と怒りを露わにする。そして、こう続ける。 


「私は全週刊誌に言いたい。もうジャーナリズムなんて名乗らない方がいい。自分のところにとって都合の悪いことは徹底的に知らんぷりを決め込むなんて、誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか」 


 こんな文章をまさに、文春に書いてしまうからすごい。編集部も載せざるを得ない。拒んでしまったら、第2の「池上彰コラム問題」になるからだ。林さんの勇気ある行動に、ただただ感服する。

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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所刊)など。