沖縄ネタばかり取り上げるつもりはないのだが、自分自身が沖縄に滞在して取材中ということもあり、どうしても気になる悪質記事はつぶしておきたくなる。今週最も目立ったのは、週刊新潮の『「小沢一郎」が濡れ手で粟の「バブリー別荘」』という記事。もちろん、9月13日に始まった沖縄県知事選に、先月急逝した翁長雄志知事の後継者として出馬した前自由党衆議院議員の玉城デニー氏の評判を落とすべく書かれたネガキャン記事である。
記事によれば、小沢氏は2005年、名護市と金武町に挟まれた宜野座村という場所に約5000平米の土地を買い、そこに5年前、建設費7000万円の豪華な別荘を建てていた、という。そこまでなら、そうですか、で終わる話だ。
だが記事は、別荘の所在地が基地問題で揺れる名護市辺野古地区から南方に約9キロ離れた場所にある、ということで、基地完成の暁には別荘は必ず値上がりし、小沢氏はその「濡れ手に粟」を目論んでいるのだという。ホンマかいな、である。
現地を知る者からすれば、名護市辺野古区の周辺や隣村の宜野座村、さらに南にある金武町といった本島東海岸の一帯は、どちらかと言えば活気のない寂れた地域である。辺野古新基地ができたら兵士が増え、スーパーや飲食店ができたりして、辺野古周辺はおろかこの宜野座村に至るまで地価が上がるはずだ、と新潮記事は言う。しかし、このエリアにはすでに現在でも、辺野古のキャンプシュワブ、金武町のキャンプハンセンという海兵隊基地が存在しているのだ。にもかかわらず、ハンセン基地前にこぢんまりとした飲食街があるだけで、その昔、ベトナム戦争時代に栄えたという辺野古の飲食街のほうは、廃業後放置された空き店舗だらけになってしまっている。
そもそも辺野古周辺では、以前から「1世帯当たり1億5千万円の個人補償がある」という出所不明の噂が流れていて、そのことが地元世論を埋め立て反対から容認へと変えてきた経緯があるのだが、国側はそろそろ“ネタばらし”をしてもいいころだと判断したのだろう、つい最近、地元自治会に「個人補償はあり得ない」と正式に通告した。容認派住民の間にはもちろん、深い落胆が広がっている。
いずれにせよ、隣村の宜野座村はもちろんのこと、地元中の地元・辺野古区においてさえ、「新基地建設によって地価が値上がりするかもしれない」という期待など、過去一度も聞いたことはない。繰り返すが、新基地の門前町となる辺野古の飲食街さえも、未だ廃屋だらけなのである。「値上がり必至」なのに、いったいなぜなのか。
で、新潮記事は何を根拠にこんな記事を書いたのかと言えば、新潮お抱えの沖縄叩きライター・篠原章氏による「地元は大いに活性化するはずです」というコメント、そして故・翁長氏の娘が中国共産党関係者と結婚している、というデマを発信・拡散したままで、ついぞ訂正・謝罪をしていない“ジャーナリスト”惠隆之介氏による「小沢さんは間違いなくあの土地で大幅に儲ける」という推測だけだった。
週刊誌の沖縄中傷記事、と言えば、かつて週刊文春の契約記者としてその手の記事を量産し、同時にまたペンネームでこっそりとライバル誌・新潮にも似た記事を書き、それがバレて文春をクビになった竹中明洋氏というライターがいた。この人物はその後、辺野古を容認し県民の猛反発を受け落選した仲井眞弘多・前知事を持ち上げる本を書いたのだが、今回の知事選では驚くべきことに、自民系候補・佐喜眞淳候補の選挙スタッフにすっぽりと収まっていた。要はもう、客観的な取材をするジャーナリスト、という“ふりをすること”さえやめてしまったのだ。
何とも言葉を失ってしまうが、何にせよ、この手の記事を目にしたら、その背後には往々にして薄汚い政治的思惑や算盤勘定が渦巻いている、と疑ってみたほうがいい。ヨタ記事に騙されないための読者の自衛策である。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。