「自治体の方は参加されていますか?」――。東京大学・高齢社会総合研究機構の木村清一さん(客員研究員)は、9月12日に幕張メッセで開催された地域包括ケアEXPOの特別セミナーの冒頭で、会場の参加者にこう問いかけた。
木村さんは地域包括ケアの最先端と評価されている千葉県柏市の地域包括ケア構築に携わっており、その過程で自治体のリーダーシップが地域包括ケアの構築には不可欠と確信したようだ。
柏市はこれまで▼地域医療拠点の整備▼2人主治医制▼在宅医療に関する多職種研修▼24時間訪問看護・介護体制▼顔の見える関係会議▼情報共有システム▼緊急時のバックアップ体制▼市民への在宅医療の啓発▼サ高住モデルの建設――などに取り組んできたが、医師会と行政がタッグを組んで他(多)職種・団体に働きかけていかなければ地域包括ケアは進んでいかないことを木村さんは強調していた。面倒な事務局の役割は、すべて柏市が担っているという。
柏市の事例セミナー聴講後、各ブースをのぞいていたら千葉市の地域包括ケアの担当者に呼び止められた。千葉市は、エーザイ、イオンと組んで「認知症の人とともに暮らすまちづくり」を目指している。それぞれの役割は次のとおり。
<千葉市> 市民への広報▼関係団体との調整
<エーザイ> 医療機関、医療従事者、医師会ほか各団体との連携調整▼イベント内容企画推進 「認知症のことを知る・考える機会の創出。hhc企業として患者様や生活者の皆さまのベネフィット向上のため。認知症の方と共生する「まちづくり」の実現を目指す」
<イオン> 地域住民と多くの接点を持っている「場」の提供▼イベント内容共同企画 エーザイのように、医師に接点を持つ製薬企業が認知症教室・イベントに医師等を講師として招聘できる役割は大きい。エーザイが講師を呼び、千葉市が集客をする。しかし、製薬企業と自治体の組み合わせでは、参加する市民が60歳代以上の“常連さん”に固定されやすくなってしまう。
この悩みを解決したのがイオンだった。イオンモール幕張新都心を会場にすることで、普段は接する機会の少ない30~50歳代の若い世代に、認知症に関する情報を提供することが可能になったそうだ。
前出の柏市も、医師会との連携だけでは地域包括ケアの“最先端成功モデル”と評価されることはなかっただろうし、千葉市もエーザイとのコラボレーションだけでは行き詰っていたかもしれない。
地域包括ケアをブレイクスルーさせるには、“第3のプレイヤー”を仲間に入れることがポイントになりそうだ。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。