講演などで「地域包括ケアにコミットする4つのレベル」を説明する際に、「ビール工場で飲むビールは、なぜ美味しいのか?」と参加者に問いかけている。


  ビールメーカーの人は、「店頭で売られているビールと同じ味です」と説明してくれるが(笑)、どう考えてもビール工場で飲むビールのほうが美味しく感じる。


  違いを生み出しているのは、新鮮(できたて)であることに加え、ビールをつくるプロセスを1時間以上かけて見学したこと。同じ体験をした仲間と一緒に飲むこと。非日常・特別な体験をしたこと。ビールの作り手の思いに触れたことも大きいだろうが(ビール工場の)“中”にいるという要素も気分的に影響していると思う。


  仕事も同じだ。医療チーム、地域包括ケアの一員として仕事をしたほうが、高い充実感を得られるはずだ。以前、本コーナーでも紹介した「アクティブゾーン」で仕事をするには、医療従事者に企業側(あっち側)の人間ではなく顧客側(こっち側)の人間だと認識してもらう必要がある。 


 


「地域包括ケアにコミットする4つのレベル」の1つめのレベルは、「地域包括ケアって何なんだろうね?」と、地域のデータや将来のことを考えずに、お互いの主観的な意見に終始しているレベルである。これではまったく行動に移せない。


  レベル2は、各種データ等をもとに「地域包括ケアって、そういうことだったのかぁ!」と実感するレベルである。レベル2の取り組みとしては、▼客観的な地域の情報を共有する▼問題・課題を見える化する▼「10年後のアウトカム」を改善するために、どのような取り組みが必要になるのか、医療従事者や経営者と意見交換をする――などにより、顧客側にとって現状は優先順位の低い地域包括ケアへの取り組みの意識を上げることである。『One Patient Detailing実践ガイドブック』のなかでも指摘したように、優秀なMRは医師との“課題形成”を重視している。


  レベル3は本格的に「エリア・マーケティングを実践していく」ステージになる。そのためには、知る→つなぐ→掘り起こす→アウトカムを測定する→次のプロジェクトを握る――という地域包括ケアの“免疫システム”になる5つのステップが有効だ。


【知る】地域のリソースと連携(医師・歯科医師・薬剤師・看護師・栄養士・ケアマネ・ホームヘルパー&自治体)の“太さ”を把握する 


【つなぐ】コミュニティをつくる(協力者・リーダーを見つける) 


【掘り起こす】対象疾患の患者を掘り起こす(1次・2次・3次予防ごとのソリューションを提示する) 


【アウトカムを測定する】アウトカムを測定する〔3つのアウトカム(臨床・患者主観・経済)〕


 【次のプロジェクトを“握る” 】


 最後のレベル4は「地域包括ケアの一員となる」ステージだ。一時的な介入ではなく、地域のアウトカムの改善を“ライフワーク”として取り組むことである。



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 川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。