去る9月11日、厚生労働省から「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」が発表された。この調査が始まったのは1945(昭和20)年12月。終戦直後、飢餓に苦しむ日本人への救援物資(ララ物資)を届けるにあたって栄養状態を把握するために、GHQの指令に基づき、東京都の3,500世帯、約30,000人を対象に行われたものが前身だ。さらに、1948年には対象が全都道府県に広げられた。


◆在外邦人、日系人の奔走で実現  “ララ”は救援の主体となったNGOの略称(Licensed Agencies for Relief in Asia、アジア救援公認団体)。アメリカの宗教団体・社会事業団体・労働団体などが加盟していたことから、「アメリカからの善意の贈り物」として記憶されてきたが、その陰には在外邦人や日系人の熱心な働きかけもあったようだ。


 特に、サンフランシスコ在住の浅野七之助氏(盛岡出身。原敬の書生の後、新聞の特派員として渡米した人物)は、戦後日本の窮状を知り、「一食を分かち、一日の小遣いを割いても、援助することは良心的な義務」との信念を抱き、同士とともに集会や新聞記事を通じて、救済運動の盛り上げを図り、日系人の協力で支援物資を調達した。


 ところが、大統領直轄の救済統制委員会から認可を受けないと、国外に物資を送ることはできない。そこで、親日家のエスター・B・ローズ女史に仲介を頼み、ようやく公認を得たという。ローズさんは、戦前に英語教師として日本で過ごし、戦時中は多数の日系人の世話をする、国務省に「日本爆撃即時停止」の嘆願をするなど、平和に向けて尽力した人だ。


 ララは1946年6月から1952年6月までの6年間、占領下の日本で活動した。ローズさんは駐日ララ代表のひとりとして、GHQや日本政府との仲介や物資の分配、ララ加盟団体やアメリカ国民への報告や依頼などの実務を担った。その間に送られた物資は、合計重量3,300万ポンド(15,000米トン)。内訳は食料75.3%、衣料19.7%、医薬品0.5%で、山羊や乳牛も届けられた。支援の動きはやがて、カナダ、メキシコ、ブラジル、チリ、アルゼンチン、ペルーなどにも拡大した。


 物資配分は、「公平」「効果的」「迅速」を3大モットーとしていた。その実現のために、地域と対象に優先順位をつけた。つまり、戦争被害者の数に基づいて都道府県を4グループに分けたうえで被害の大きい地域から、また、福祉施設を手始めに、一般生活困窮者、在宅結核療養者、引き揚げ者、未亡人、開拓者、夜間学校学生へと順次分配したほか、学校給食にも使われるようになった。


◆健康課題解決に民間の力を活用する時代に  戦後すぐに始まった栄養調査は、飢餓から飽食の時代を経て、健康増進法の成立とともに2003年には「国民健康・栄養調査」に変わった。現在の調査は、身体状況、栄養摂取状況、生活習慣の3本柱から成る。


 調査結果は初期のものからウェブ上で公開されている。最も古い1947年の報告書によれば、栄養(エネルギー)摂取量とたんぱく質摂取量の年間平均は都市が1,856kcalと61.6g、農村が2,412kcalと59.7gで、「食糧状況の好転に伴い前年度より増加し、農村はほぼ望ましい量に近づいたが、都市は300kcal内外の不足」、「蛋白質は都市農村とも15g内外不足」と総括。また、脂肪の摂取量の年間平均は、都市が15.3g、農村が13.4gだった。


 一方、最新の報告書が公表されている2017年の調査結果によれば、エネルギー摂取量の平均は1,864kcal、たんぱく質68.5g、脂肪57.2g、炭水化物252.8g。1947年と人口構成が異なるので一概に比較はできないが、エネルギーは1971年、たんぱく質と脂肪は1995年、炭水化物は1951年をピークに低下している〈図〉。


 また、「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」について厚生労働省は、①高齢者の栄養状態は食事・身体活動・外出活動と関係、②女性は20~50歳代でもやせが課題、③40歳代で睡眠の状況に課題、④受動喫煙の機会は「飲食店」が最も高く4割超、の4点をポイントとした。特に最大の課題を、「高齢者の健康づくりには、食事、身体活動に加えて、生活状況も踏まえた視点が重要」とまとめている。


 この課題解決のために、民間事業を活用する方策も検討されてきた。そのひとつが、配食サービスのボトムアップだ。『地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン』が作成され、昨年来、配食事業者と利用者の双方に対する普及が図られている。その内容は、配食にあたって、基本情報(居住形態、要介護・要支援認定、ADL・IADL)、身体状況・健康状況(摂食嚥下機能を含む)、食に関する状況などを把握したうえで、利用者に合った食事を提供する、というものだ。


 こうした施策につなげられるのも、国民健康・栄養調査という基礎資料があればこそ。自分たちも決して豊かではなかった在外邦人や日系人、昨日までの敵国を支援してくれた人々に感謝するしかない(玲)。